
ハートマス健康経営アカデミー代表の行政書士、小野馨です。
今回は、安全配慮義務違反のリスクについてお話します。
ストレスチェックの未実施の法的責任と対策についての重要なこともお話します。
経営の根幹にかかわることなので、ぜひ最後までご覧ください。
突然ですが、経営者の皆さんに一つだけ質問させてください。
「もし明日、従業員のご遺族から『過労によるうつ病で自殺したのは会社の責任だ』という内容証明郵便が届いたら、御社は生き残ることができますか?」
「うちは従業員が50人未満だから、ストレスチェックなんてやらなくていい」
「メンタル不調は個人の弱さの問題でしょ?」……
もし心のどこかでそう思っているとしたら、それは会社存亡に関わる、あまりにも危険な誤解です。
現代の司法において、企業の責任範囲は劇的に拡大しています。過労死やメンタルヘルス不調による自殺を巡る裁判では、企業側に「安全配慮義務違反」として1億円を超える損害賠償を命じる判決も珍しくありません。
法律は「知らなかった」「悪気はなかった」では済まされません。
この記事では、企業の防衛を担う行政書士としての法務の視点から、中小企業経営者が陥りやすい「努力義務の罠」と、会社を守るための鉄壁のリスク対策(法務×ハートマス)について、包み隠さず徹底解説します。これは脅しではありません。
あなたの会社と社員を守るための、転ばぬ先の杖として、必ず最後まで目を通してください。
- 「安全配慮義務違反」の正確な法的定義と、メンタルヘルスにおける責任範囲がわかる
- 従業員50人未満の企業でもストレスチェック未実施が「違法(過失)」になる法的ロジックがわかる
- 万が一の訴訟時に、会社を倒産から守るための「証拠(エビデンス)」の作り方がわかる
- 法務(ハード)とハートマス(ソフト)を組み合わせた、リスクをゼロに近づける最強の予防策がわかる
安全配慮義務違反とは?経営者が知るべき法的責任
まずは、すべての企業経営の根幹に関わる法律、「労働契約法」の話をしましょう。
この法律を知らずに社員を雇うことは、無免許で高速道路を走るのと同じくらい無謀で危険なことですよ。
経営者が「安全配慮義務」という言葉の重みを正しく、そして深く理解していないと、ある日突然、莫大な賠償請求書が届き、積み上げてきた会社が一瞬で吹き飛ぶことになります。
参考
安全配慮義務の定義とメンタルヘルスの適用範囲
労働契約法第5条には、「安全配慮義務」が明確に定められています。
注意ポイント
条文を要約すると、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」というものです。
これは、雇用契約を結んだ時点で、就業規則に書いてあろうがなかろうが、自動的に発生する使用者(会社)の基本的かつ絶対的な義務です。
「身体」だけでなく「心」も守る義務がある
かつて昭和の時代の「安全」と言えば、建設現場でヘルメットを被らせるとか、工場のプレス機に巻き込まれないように防護柵を設置するといった、物理的な安全管理の意味合いが強かったのです。
しかし、現代の裁判実務では、この解釈が劇的に、そして急速に拡大しています。
在は、「メンタルヘルス(心の健康)」も守るべき「安全」の対象であることが、最高裁の重要判例(電通事件など)によって確定しています。
つまり、会社には「社員が業務によってうつ病になったり、精神的に追い詰められたりしないように配慮する義務」があるのです。
もし社員が、長時間労働やパワーハラスメント、過度なノルマといった業務起因でメンタル不調に陥った場合、会社が「適切な配慮(業務の軽減、休職命令、相談対応など)」を怠っていたと判断されれば、債務不履行(契約違反)として損害賠償責任を問われることになります。
これは、経営者が「そんなつもりじゃなかった」「本人からの申し出がなかった」と言っても免責されない、非常に重い責任なんですよ。
厚生労働省のガイドラインでも、メンタルヘルス対策が事業者の責務であることが強調されています。詳細は以下のリンクで確認できます。
(出典:厚生労働省『メンタルヘルス対策に関わる法律・指針』)
「予見可能性」と「結果回避義務」の2つの壁
裁判で会社側の責任(安全配慮義務違反)が問われる際、最大の争点となり、勝敗を分けるのは主に**「予見可能性」と「結果回避義務」**の2点です。
ここを法的に理解していないと、現場でどのような対策を講じればよいのか、その基準が見えてきません。
1. 予見可能性:会社は予測できたか?
「その社員がメンタル不調に陥ることを、会社は事前に予測できたか?」という点です。例えば、月80時間を超える長時間労働が恒常化していた、上司への相談履歴があった、遅刻や早退が急増していた、会議での発言が減り顔色が悪かった……といった兆候(サイン)があった場合、裁判所は「会社は健康配慮のプロとして、不調を予見できたはずだ」と判断します。重要なのは、「社長は忙しくて気づかなかった」という主観ではなく、**「一般的な注意義務を尽くしていれば気づけたはずだ」**という客観的な基準で判断されることです。管理職が「あいつ最近元気ないな」と認識していただけで、会社全体の予見可能性が肯定されることもあります。
2. 結果回避義務:会社は対策をとったか?
予見できた(あるいは予見すべきだった)のであれば、会社はその結果(自殺や発病)を避けるために具体的な対策をとらなければなりません。単に「無理するなよ」と声をかけるだけでは不十分です。業務量を具体的に減らす、配置転換をする、医師の診断を受けさせる、休職を命じるといった実効性のあるアクションをとったかが問われます。もし「今は繁忙期だから」と放置していれば、結果回避義務違反となります。
ここが最大のリスク:不作為の罪
ストレスチェックを実施していない企業は、この**「予見可能性」の時点で圧倒的に不利になります。「社員のストレス状態を把握するための標準的な手段を使わず、予見する努力すらしなかった」とみなされ、過失を問われる可能性が極めて高いのです。つまり、「不作為(何もしなかったこと)」**自体が責任追及の対象になるのです。
中小企業を襲う「億単位」の損害賠償リスク
「うちは中小企業だから、そんな大げさなことにはならないよ」「訴えられるのは過酷な労働を強いている大企業だけでしょ」と思っていませんか? 実は、資金力の乏しい中小企業こそ、たった一件の訴訟で倒産に追い込まれるリスクが高いのです。
賠償額の内訳とインパクト
過労死や過労自殺の裁判では、会社側に支払いが命じられる賠償額は数千万円から、時には1億円を超えることも珍しくありません。なぜこれほど高額になるのかというと、賠償額には、精神的な苦痛に対する「慰謝料」だけでなく、**「逸失利益(いっしつりえき)」**が含まれるからです。
逸失利益とは、「もしその社員が健康に働き続けていたら、定年(65歳など)までに得られたはずの生涯賃金総額」のことです。計算式は複雑ですが、ざっくり言えば【年収 × 働けるはずだった年数】です。そのため、将来有望な20代、30代の若手社員が亡くなった場合、働けるはずだった期間が長いため、賠償額は跳ね上がります。資本金数千万円の中小企業にとって、キャッシュで一括して1億円を支払うことは事実上の**「即時倒産」**を意味します。さらに、企業名が「ブラック企業」として報道されれば社会的信用も失墜し、新たな採用も困難になるでしょう。健康経営への投資(年間数十万円)を惜しんだ結果、会社そのものを失う……これほど恐ろしいことはありません。
「50人未満だから努力義務」の法的な落とし穴
ここが今回の記事で最もお伝えしたい、多くの中小企業経営者が陥っている**「法解釈の致命的な罠」**です。労働安全衛生法上の「義務」と、民法上の「責任」は全く別物だと認識してください。この違いを知らないことが、裁判での敗北を決定づけます。
「努力義務=やらなくていい」ではない
労働安全衛生法では、常時使用する従業員が50人以上の事業場にはストレスチェックの実施義務がありますが、50人未満の事業場には**「当分の間、努力義務とする」**とされています。これを見て、「ああ、努力義務ならやらなくていいんだ、罰則もないし、コストもかかるから後回しにしよう」と解釈してしまう経営者の方が非常に多いのですが、これは行政書士として断言します。経営判断として非常に危険な解釈です。
「やらなかったこと」が民法上の過失になる
裁判所は、労働安全衛生法(行政法規)だけでなく、民法の「安全配慮義務違反」や「不法行為責任」に基づいて判断を下します。民法における過失の有無は、**「その当時の社会通念上、当然やるべき配慮をしたか」という基準で判断されます。ストレスチェック制度が施行されてから数年が経ち、社会的にメンタルヘルス対策の重要性が認知されている現在において、ストレスチェックはもはや「特別な対策」ではなく「標準的な健康管理手法」**として定着しています。
もし裁判になった時、裁判官から「なぜ、これだけ一般的に普及しており、国も推奨しているストレスチェックを実施して、社員の不調を早期発見しようとしなかったのですか?」と問われたら、どう答えますか?「法律で義務化されていなかったから」という言い訳は、**「社員の命を守る努力を放棄した」と受け取られかねません。司法の場では、「実施していれば防げた事故(自殺など)」**については、実施しなかった会社の過失(不作為)が厳しく問われるのです。「努力義務」とは、「やらなくていい」ではなく「やるように努めなさい(=やらないと万が一の時に責任を問われますよ)」という国からの強い警告だと捉えるべきです。
会社を守る「証拠(エビデンス)」としてのストレスチェック
逆に言えば、ストレスチェックを実施することは、会社を守るための**最強の防御壁(エビデンス)**になります。裁判において最も重要なのは「客観的な証拠」です。経営者の頭の中にある「いつも気にかけていた」「心配していた」という思いだけでは、法廷では何の力も持ちません。
実施の事実が「予見の努力」を証明する
定期的にストレスチェックを実施し、その結果を記録として保存しておくこと。そして、高ストレス者に対して医師の面接指導を案内した記録を残しておくこと。これらはすべて、万が一の時に**「会社は予見可能性を高める努力をし、結果回避のために手を尽くした」**という強力な免責証拠になります。
行政書士として多くのアドバイスをしてきましたが、**「書面に残っていない対策は、法的にはやっていないのと同じ」**です。例えば、「口頭で『大丈夫か?』と聞いた」という主張は、言った言わないの水掛け論になりますが、「○月○日にストレスチェックを実施し、高ストレス判定が出た社員に対し、産業医面談を勧奨するメールを送り、相談窓口を案内した」という記録は、客観的な事実として会社を守ります。ストレスチェックの実施記録は、会社が誠実に安全配慮義務を果たしたことを証明する、数少ない公的な記録なのです。
集団分析を活用した職場改善の義務
「ストレスチェックをやったから安心」ではありません。やりっぱなしにするのもまた、法的リスクを高めます。個人の結果はプライバシー保護のため、本人の同意がない限り会社には直接開示されませんが、部署ごとの傾向を見る**「集団分析」**の結果は会社に提供されます。ここには、法的責任に関わる重大なヒントが隠されています。
「知っていたのに放置した」と言わせないために
集団分析で「A部署は著しくストレスが高い(業務量が過多、または上司の支援が不足している)」という結果が出ているのに、それを放置してA部署の社員が倒れた場合、会社は**「職場環境配慮義務違反」**を問われます。データとしてリスクが可視化されている以上、「気づかなかった」は通用しません。データを受け取った時点で、会社には具体的な対応策を講じる義務が発生するのです。
逆に、集団分析の結果を受けて、「業務配分の見直しを行った」や「管理職向けのハラスメント研修を実施した」「人員を増強した」という**改善の記録(会議の議事録や研修資料など)**があれば、それは会社を守る強力な盾となります。「結果的に不調者は出たが、会社としてはできる限りの対策を講じていた」と主張できるからです。健康経営優良法人の認定基準にも「集団分析結果の活用」が含まれているのは、単なる健康促進だけでなく、こうした法的リスク回避(リスクマネジメント)の意味合いも非常に強いのです。
最強の予防策:法務(ハード)とハートマス(ソフト)の融合
ここまで怖い話をしてきましたが、対策はあります。それは、リスクを回避する**「法務(ハード)」と、そもそもリスクを発生させない「ケア(ソフト)」**の両輪を回すことです。どちらか片方だけでは不十分です。これが、ハートマス健康経営アカデミーが提供する独自のソリューションです。
予防法務:就業規則と規程の整備
まずはハード面です。行政書士として、御社の就業規則や社内規程を見直します。多くの中小企業の就業規則は、厚生労働省のモデル就業規則をそのまま使っていたり、メンタルヘルス不調を想定していない古い内容のままになっていたりすることが多く、これがトラブルの原因になります。
リスクを穴埋めする文書作成のポイント
| 整備すべき規程 | 目的と法的効果 |
|---|---|
| メンタルヘルス休職規程 | 不調者が出た場合、どのような条件で休職させ、休職期間はどれくらいか、どのように復職させるか(リワークプログラムの有無、試し出勤制度など)のルールを明確にします。これが曖昧だと、復職判断を巡るトラブルや不当解雇のリスクになります。 |
| ハラスメント防止規程 | 相談窓口の設置と、加害者への懲戒処分の基準を明記し、抑止力を高めます。ハラスメント発生時の会社の調査手順やプライバシー保護を定めておくことで、初期対応のミスを防ぎます。 |
| 健康管理規程 | ストレスチェックの実施手順、情報の取り扱い、産業医との連携ルールを定めます。要配慮個人情報の取り扱いについて定めておくことは、個人情報保護法の観点からも必須です。 |
これらの文書が整備されていること自体が、「会社は従業員の健康管理についてルールを定め、運用している」という安全配慮義務を履行している強力な証拠となります。
根本解決:ストレスを溜めない「ハートマス」の導入
しかし、いくら立派な規程を作っても、実際に社員が次々と倒れてしまっては意味がありません。法務はあくまでトラブルが起きた時の「守り」です。そこで必要なのが、**「そもそもメンタル不調者を出さない」ための教育、すなわちハートマス(科学的メンタルケア)**の導入です。
自分で自分の心を守るスキルを授ける
ハートマスは、ストレスを感じた瞬間に、呼吸法を使って自律神経を整え、脳と心臓を同期(コヒーランス)させる技術です。これを社員研修として導入することで、社員は**「ストレスに対処する具体的なスキル(セルフケア能力)」を身につけます。従来のメンタル研修でありがちな「ストレスは悪いものだから避けましょう」「よく寝ましょう」という精神論ではなく、「ストレス反応が出たら、こうやって呼吸を整えれば数値(心拍変動)が変わり、リセットできる」という具体的な技術**を教えるのです。
会社がこの研修機会を提供したことは、「安全配慮義務の履行(メンタルヘルス教育の実施)」として高く評価されます。さらに重要なのは、社員自身がストレスを解消できるようになるため、リスクの根本原因(ストレスの蓄積)そのものが消滅していくことです。不調者が出なければ、訴訟も起きません。これが、法的リスクの種を摘み取る、最も本質的かつ建設的な解決策と言えるでしょう。
究極のリスクヘッジとは
弁護士を雇って裁判で勝つ準備をすることではありません。**「裁判など起こり得ない、活力ある幸せな職場を作ること」**です。法務で守りを固めつつ、ハートマスで組織を健康にする。これこそが、経営者がとるべき最強のリスク対策であり、ウェルビーイング経営の本質なのです。
安全配慮義務違反を防ぐためのまとめ
安全配慮義務違反のリスクは、中小企業にとって対岸の火事ではありません。ストレスチェック未実施やメンタルヘルスの放置は、会社を一発で倒産させかねない**「時限爆弾」**を抱えているようなものです。しかし、このリスクは適切な知識と行動でコントロール可能です。
正しく恐れる必要はありません。ストレスチェックの実施、法務規程の整備、そしてハートマスの導入というステップを踏めば、そのリスクは限りなくゼロに近づけられます。それどころか、その取り組みは「健康経営優良法人」として評価され、会社のブランド力を高める資産に変わります。
「うちの就業規則は大丈夫かな?」「ストレスチェックはどう始めればいい?」と少しでも不安に思われた方は、すぐにご相談ください。行政書士の知識とハートマスのメソッドで、御社を法的リスクから守り、黒字体質の幸せな会社に変えるお手伝いをいたします。
※本記事の内容は一般的な法情報の提供であり、個別の事案に対する法的判断や裁判結果を保証するものではありません。具体的な労務トラブルについては、弁護士や社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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