健康経営

健康経営コンサルティング費用相場と選び方【2025年完全版】

健康経営のコンサルティング費用

小野馨
こんにちは

ハートマス健康経営アカデミー 代表のエグゼクティブ健康経営コーチの小野馨です。

自社の業績の行く末と従業員を大切に想い、彼らが長く元気に働ける環境を作りたい。そんな温かい想いを持って、あなたはこの記事にたどり着かれたのだと思います。

本当に素晴らしいことです。

ただ、いざ「健康経営を始めよう」「専門家に頼んでみよう」と動き出してみると、その費用の分かりにくさに直面しませんか?

ネットで検索しても「月額3万円」という格安サービスから、「数百万円」という本格的なコンサルティングまで、価格差があまりにも大きすぎて、「一体いくらが適正なの?」「安かろう悪かろうでは困るけれど、無駄なコストは払いたくない」と迷ってしまうのは当然のことです。

経営者として、あるいは担当者として、費用対効果(ROI)をシビアに見るのは間違っていません。

この記事では、2025年時点での最新の市場データや、私自身が多くの企業の支援現場で見てきた経験をもって、コンサルティングの「リアルな数字」を包み隠さずお話しします。

単なる価格表ではありません。なぜその金額になるのかという構造や、知っている会社だけが得をしている助成金の活用術、そして「実質0円」という甘い言葉の裏側にあるリスクまで、プロの視点で徹底的に解説します。

ぜひ最後までご覧ください。

  • 中小企業から大企業まで、規模別・目的別の詳細なコンサルティング費用相場
  • 最大数百万円規模の支援も可能になる、最新の助成金活用スキーム
  • 「実質0円」のカラクリと、契約前に絶対確認すべき落とし穴
  • 自社の課題に本当にマッチするパートナーを見極めるための具体的基準

健康経営のコンサルティング費用相場と市場

それでは、早速本題の「お金」の話から入っていきましょう。健康経営のコンサルティング市場は今、過渡期を迎えています。

2025年現在、市場は急拡大していますが、それに伴ってサービス内容も価格も玉石混交、まさにカオスな状態と言っても過言ではありません。

「誰に」「何を」「どこまで」頼むかで、見積もりの桁が一つ変わることも珍しくないんですよ。まずは、この複雑な相場観をクリアにしていきましょう。

中小企業の導入費用とコストの目安

私たちのような中小企業(従業員数300名以下程度)が、たとえば「健康経営優良法人(ブライト500)」のような上位認定や、しっかりとした健康経営の基盤作りを目指してコンサルティングを依頼する場合、費用のボリュームゾーンは年間50万円から200万円程度となります。

「正直、思ったより高いな…」と感じられたかもしれませんね。あるいは「月数万円でできるって聞いたけど?」と思われる方もいるでしょう。

なぜ、この50万円〜200万円という価格帯が「標準」となるのか、その内訳を分解してみると納得いただけるはずです。

まず、健康経営の支援は「アドバイスだけして終わり」ではありません。

特に中小企業の場合、社内に専任の担当者を置く余裕がないことがほとんどですよね。

ですから、コンサルタントは実質的に「社外の健康経営推進室長」として動くことになります。

具体的な工数を見てみましょう。まず、健康診断結果のデータ化と分析に数十時間。全従業員へのアンケート実施と解析にまた数日。

そして最も大変なのが、年に一度の「認定申請書」の作成です。

これは数百項目に及ぶチェックリストを埋め、根拠資料を揃え、作文をするという、非常な労力を要する作業です。これらを専門家(社会保険労務士や健康経営エキスパートアドバイザーなど)の人件費として換算すると、どうしてもこの金額になってくるのです。

年間50〜200万円のプランに含まれる標準的なサービス

この価格帯であれば、以下のような「手厚い実務支援」が含まれているのが一般的です。

  • 現状分析・課題抽出: 健康診断データ、ストレスチェック、残業時間等のデータを統合分析し、「わが社の健康課題」を特定します。
  • 計画策定・発信支援: 経営トップによる「健康宣言」の文言作成から、社内報やWebサイトでの発信までサポートします。
  • 申請実務の代行: 健康経営優良法人の申請書ドラフト作成、修正対応。ここがプロに頼む最大のメリットと言えます。
  • 施策の実行支援: 年数回の健康セミナー開催(講師派遣)、eラーニングシステムの提供、運動イベントの企画運営など。

一方で、従業員数が数千人規模になる「大規模法人(ホワイト500)」を目指す場合は、話が全く変わってきます。

全社的なシステム導入や、統合報告書での開示支援まで含めると、コンサルフィーだけで年間数千万円になることも珍しくありません。

逆に、「認定ロゴさえ取れればいい」と割り切って、チャット相談だけの月額3万円プランを選ぶのも一つの戦略です。

ですが、その場合は実務のほとんどを自社社員がやることになるため、見えない人件費コストがかさむことには注意が必要なんです。

(出典:経済産業省『健康経営優良法人認定制度の概要』https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhoujin.html

コンサルティング会社のサービス内容比較

「コンサル会社」と一口に言っても、その出身母体によって得意なこと・苦手なことが驚くほど違います。

私はよく、この業界のプレイヤーを4つの層(Tier)に分けて説明しています。

これを知らずに「なんとなく有名だから」で選ぶと、「高いお金を払ったのに、現場の実務は全然やってくれなかった」なんてミスマッチが起きてしまいます。

以下の表と解説で、それぞれのプレイヤーの特徴を掴んでください。自社が今求めているのは「戦略」なのか「手足」なのか、それとも「ツール」なのかを考えるヒントになるはずです。

タイプ 主なプレイヤー 費用感(年) 得意分野・特徴 注意点
Tier 1

戦略系

大手総合コンサル

シンクタンク

監査法人系

数百万〜

数千万円

経営戦略との統合が得意。人的資本経営の開示、投資家向けの統合報告書作成、グローバル対応など、上場企業レベルのハイエンドな支援を行う。 現場の泥臭い実務(健診データの入力など)は管轄外か、別料金になることが多い。費用対効果が出るのは大企業に限られる。
Tier 2

実務・BPO系

社労士法人

健診代行機関

産業医紹介会社

50万〜

200万円

実務の確実性が売り。法対応(労基署対応)、産業医との連携、健診手配の代行など、人事総務の手間を減らすアウトソーシング的な側面が強い。 「経営戦略としての健康経営」という視点の提案は弱い場合がある。事務代行になりがち。
Tier 3

申請特化系

行政書士事務所

中小コンサル

保険代理店

30万〜

60万円

(単発)

認定取得のプロ。申請書の書き方、点数の取り方、フィードバック分析に特化しており、短期間・低コストで認定マークを取りたい場合に最適。 継続的な組織改善や、根本的な健康風土の醸成までは手が回らないことがある。スポット契約がメイン。
Tier 4

ツール系

HRテック企業

福利厚生サービス

月額3万〜

5万円

仕組みの提供。ストレスチェックシステムや健康管理アプリを提供し、その付帯サービスとしてチャット相談などを行う。安価で導入しやすい。 コンサルタントが伴走するわけではないため、自社で推進できる担当者がいないとツールが「塩漬け」になるリスクが高い。

このように、同じ「健康経営支援」でも中身は別物です。

最近のトレンドとしては、Tier 4のツールを導入しつつ、要所要所でTier 3の専門家のアドバイスを受けるといった「いいとこ取り」をする企業も増えていますね。

また、2023年度からは中小規模法人部門でも認定申請料(税込16,500円)が有料化されました。

これはコンサル費用とは別に国(認定事務局)に支払うものですので、予算計画から漏れないように気をつけてください。

健康経営優良法人の認定取得支援の流れ

では、実際にコンサルタントを入れた場合、どのようなスケジュール感で、どんなやり取りが発生するのでしょうか。

健康経営の取り組みは一年中続くものですが、認定取得には明確な「締め切り」があります。

ここを逃すと、どんなに素晴らしい取り組みをしていても認定は取れません。

一般的な「中小規模法人部門」のスケジュールを例に、現場のリアルな動きを見ていきましょう。

Phase 1:現状把握と体制構築(4月〜6月)

年度の始まりは、まず「自分の立ち位置」を知ることからです。

多くの企業では、定期健康診断の結果が紙のままファイルに綴じられて眠っています。コンサルタントはまず、これをデータ化(パンチ入力)し、経年変化を見える化します。

「御社は全国平均に比べて、脂質異常のリスクが高いですね」「若手社員の喫煙率が意外と高いですね」といった具体的な課題をあぶり出すのです。

また、50人以上の事業場で義務付けられているストレスチェックもこの時期に実施し、集団分析を行うのがセオリーです。

Phase 2:施策の実行(7月〜8月)

分析で見えた課題に対して、具体的なアクションを起こします。

ここでコンサルタントの引き出しの多さが問われます。例えば「運動不足」という課題に対して、単に「運動しましょう」とポスターを貼るだけでは誰も動きません。

「全社対抗ウォーキングアプリ導入」「就業時間内のストレッチタイム導入」「バランスボールの支給」など、会社の文化に合い、かつ従業員が楽しめる施策を提案・実行します。

セミナー講師の手配などもコンサルタントが代行してくれます。

Phase 3:認定申請(8月下旬〜10月)※最重要!

ここが最大の山場です。経済産業省から「健康経営度調査」が公開されます。

これは言ってみれば、健康経営のテストのようなもの。数百の質問に対して、「はい/いいえ」で答えるだけでなく、適合証明のための資料を準備したり、独自の取り組みを文章でアピールしたりする必要があります。

専門知識がない担当者が一人でやると、用語の意味を調べるだけで数日かかり、申請期限ギリギリになってパニックになる…というのはよくある話です。

コンサルタントは、この申請書のドラフト作成を行い、加点漏れがないか、表現が適切かを徹底的にチェックします。

Phase 4:フィードバックと改善(翌年1月〜3月)

無事に申請が終わると、認定結果とともに「フィードバックシート」が送られてきます。

ここには、自社の偏差値や順位が残酷なまでに明確に記載されています。

コンサルタントはこの結果を読み解き、「来年はここの項目を強化しましょう」「他社と比べてここが強みですね」と、次年度に向けた戦略を練り直します。

このPDCAを回すことこそが、健康経営の本質なのです。

費用対効果を高める助成金の活用法

ここが、この記事の中で最も皆さんに知っていただきたいポイントかもしれません。

健康経営は確かにコストがかかりますが、国はその取り組みを強力にバックアップするために、様々な助成金や補助金を用意しています。これらをうまく組み合わせることで、コンサルティング費用や設備投資費用の多くをカバーし、実質的な負担を大幅に圧縮することが可能です。

「助成金って手続きが面倒そう…」と思われるかもしれませんが、だからこそコンサルタント(特に社会保険労務士などの専門家)の腕の見せ所なのです。

2025年版の代表的なものを詳しくご紹介しましょう。

1. 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)

これは厚生労働省管轄の、最も汎用性が高い助成金の一つです。健康経営の基盤となる「長時間労働の是正」や「有給休暇の取得促進」に取り組む企業を支援します。 特筆すべきは、コンサルティング費用そのものが助成対象になる点です。さらに、勤怠管理システムの導入や、労働能率を上げるための設備投資(DXツールなど)も対象になります。 そして、この助成金のパワーを最大化するのが「賃上げ加算」です。事業場内最低賃金を一定額引き上げることで、助成上限額が跳ね上がります。例えば、3%の賃上げを行うことで、最大で数百万円規模の助成を受けられるケースもあります。

2. 業務改善助成金

こちらも非常に強力です。事業場内で最も低い時給(事業場内最低賃金)を一定額(30円以上など)引き上げ、かつ生産性向上のための設備投資を行った場合に、その費用の一部(最大600万円)を助成してくれます。 健康経営の文脈では、腰痛予防のための昇降式デスクの導入、メンタルヘルス研修の実施、健康管理システムの導入費用などが対象になり得ます。「賃上げ」と「健康投資」をセットで行うことで、国から大きな支援が得られる仕組みなのです。

3. エイジフレンドリー補助金

高齢化が進む日本ならではの制度です。60歳以上の高年齢労働者が安全に働ける環境を整備するための費用を補助します。例えば、転倒防止のための滑りにくい床材への変更、身体負荷を軽減するパワーアシストスーツの導入、健康保持増進のための各種措置などが対象です。補助率は1/2、上限は100万円程度ですが、高齢者の雇用維持は健康経営の重要なテーマですので、ぜひ活用したい制度です。

(出典:厚生労働省『働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html

実質0円で導入可能な仕組みと注意点

インターネットで「健康経営 コンサルティング」と検索していると、一度は「実質0円で認定取得!」や「費用は助成金で全額カバー!」といった魅力的な広告を目にしたことがあるのではないでしょうか。「そんな上手い話があるのか?」「怪しいのではないか?」と警戒されるのは、経営者として非常に健全な感覚です。ここでは、この「実質0円」ビジネスの裏側にあるメカニズムと、そこに潜むリスクについて、業界内部の視点から率直にお話しします。

まず、「実質0円」は詐欺ではありません。論理的には成立するビジネスモデルです。その仕組みの基本は、先ほど解説した「助成金」です。 コンサルティング会社は、例えば60万円のコンサルフィーを設定します。同時に、60万円以上の受給が見込める助成金(人材確保等支援助成金や働き方改革推進支援助成金など)の申請を代行・サポートします。助成金が入金されれば、帳簿上はプラスマイナスゼロ、あるいはプラスになる。これが「実質0円」の表向きのロジックです。

しかし、これだけでコンサル会社が儲かるわけではありません。実は、多くの「実質0円」業者には、別のキャッシュポイント(収益源)があります。これを理解しておくことが極めて重要です。

「実質0円」スキームの裏側とリスク

多くの業者は、認定取得支援をあくまで「ドアノックツール(入り口)」として利用しています。真の目的は、その背後にある「クロスセル(抱き合わせ販売)」です。

  • 保険契約のマージン: 「健康経営の一環として」と、福利厚生プランの保険契約をセットで提案されるケース。保険代理店として高い手数料を得ています。
  • 高額システムの長期契約: 初年度は安くても、2年目以降に解約できない高額な健康管理システムやクラウドサービスの契約が条件になっていることがあります。
  • 助成金頼みのリスク: 助成金は、予算の上限や審査結果によって「不採択(もらえない)」になるリスクが常にあります。もし助成金が出なかった場合、コンサル費用だけが請求される契約になっていないか、必ず確認が必要です。

もちろん、提案される保険やシステムが自社にとって本当に必要なものであれば、それは「賢い買い物」になります。しかし、「タダだから」という理由だけで飛びつくと、後から「使わないシステムに毎月数万円払い続けている」「解約しようとしたら高額な違約金を請求された」というトラブルに発展しかねません。契約書のスミズミまで、特に「解約条件」と「助成金不支給時の費用負担」については、目を皿のようにして確認してください。

失敗しない健康経営コンサルティングの選び方

ここまで、費用や市場の裏側についてお話ししてきました。これらを踏まえた上で、では具体的に「誰をパートナーに選べばいいのか」という核心部分に入っていきましょう。健康経営は、一度認定を取って終わりではありません。企業文化として根付かせ、従業員が活き活きと働く未来を作るための長い旅です。その旅のパートナー選びは、結婚相手を選ぶくらい慎重になっても良いと私は思います。

自社に合うコンサル会社を選定する基準

私がもし、行政書士としてではなく一企業の経営者としてコンサルティング会社を選ぶとしたら、絶対に譲れないチェックポイントが3つあります。ホームページや営業担当者の言葉だけでなく、以下の点を踏み込んで質問してみてください。

まず1つ目は、「実績の質」です。「認定取得率100%」という数字は、実はそれほどすごくありません(要件さえ満たせば認定される制度だからです)。見るべきは、「ブライト500(中小規模法人部門の上位500社)」のような冠認定の取得実績があるかどうか、そして「自社と同規模・同業種の支援実績」があるかどうかです。建設業には建設業の、IT企業にはIT企業の健康課題があります。業界特有の悩み(例:現場作業員の生活習慣、エンジニアのメンタル不調など)を理解しているコンサルタントのアドバイスは、解像度が全く違います。

2つ目は、「チームに専門家がいるか」です。営業担当者が調子の良いことを言っていても、実際に実務を行うのが資格のないスタッフでは不安です。社会保険労務士(労務管理のプロ)、保健師(健康指導のプロ)、健康経営エキスパートアドバイザーといった有資格者がプロジェクトチームに入っているかを確認してください。特にメンタルヘルス対応や就業規則の変更は法的なリスクを伴うため、国家資格者の監修が必須です。

3つ目は、やはり「料金体系と契約の透明性」です。「トータルでいくらかかるのか」「追加料金が発生するケースは何か」「解約条件はどうなっているか」。これらを濁さず、クリアに説明してくれる会社は信頼できます。逆に、「とにかく安くします」「任せておけば大丈夫です」と詳細を説明したがらない業者は、避けたほうが賢明でしょう。

導入メリットを最大化する施策のポイント

コンサルタントと契約しても、それで成功が約束されるわけではありません。コンサルタントはあくまで「伴走者」であり、実際に走るのは企業と従業員の皆さんだからです。導入後に最も陥りやすい失敗パターンは、社長や担当者が張り切ってトップダウンで施策を押し付け、現場が白けてしまう「温度差」の問題です。

導入メリットを最大化するための鉄則は、「徹底的なボトムアップ(現場主義)」です。 「健康のために禁煙しろ!」「毎日歩け!」と命令されても、人は動きませんよね。むしろ反発を招きます。そうではなく、まず従業員の困りごとに耳を傾けるのです。 「肩こりや腰痛で仕事に集中できない」「人間関係のストレスで眠れない」「食事を摂る時間がない」 こうしたリアルな声(ニーズ)をアンケートやヒアリングで拾い上げ、それを解決するための施策として健康経営を展開するのです。

例えば、「肩こりが辛い」という声が多いなら、就業時間内にプロのトレーナーを呼んでストレッチ教室を開く。これなら「会社は自分たちの体のことを気遣ってくれている」と感謝され、エンゲージメント(帰属意識)が向上します。 「やらされ仕事」から「自分事」へ。この意識転換をデザインできるかどうかが、投資対効果を分ける最大の分岐点です。

認定取得後の運用と効果測定の重要性

「やった!念願の健康経営優良法人の認定が取れた!」

認定証が届き、ロゴマークを名刺に入れた瞬間、多くの企業がそこで満足してしまいます。いわゆる「燃え尽き症候群」です。しかし、厳しいことを申し上げますが、認定取得はあくまで「スタートライン」に立ったに過ぎません。ロゴマークは「私たちは従業員の健康を大切にします」という社会への公約(マニフェスト)であり、本当の勝負はここから始まります。

認定取得後に最も重要なのが、「効果測定(Check)」と「改善(Act)」のサイクルです。 「ウォーキングイベントを開催しました」「野菜ジュースを配りました」。これらは「実施した事実」であって「効果」ではありません。経営として投資を行う以上、結果をシビアに見る必要があります。

例えば、以下のような指標を定点観測しましょう。

見るべき指標の例(KPI)

  • アウトプット指標(実施状況): イベント参加率、健康診断受診率、ストレスチェック実施率など。
  • アウトカム指標(結果の変化): 喫煙率の低下幅、高ストレス者の割合の変化、BMI適正者率の向上など。
  • 最終的な経営指標(インパクト): 離職率の低下、有給休暇取得率の向上、求人応募者数の増加など。

もし施策を実施しても数値が改善していないなら、その施策は「失敗」かもしれません。潔く撤退し、別の方法を試す勇気が必要です。このPDCAサイクルを回し続けることではじめて、「名ばかり健康経営」ではなく、組織を強くする「真の健康経営」へと進化します。優秀なコンサルタントは、この運用フェーズにおいても、データ分析に基づいた的確なアドバイス(伴走支援)を提供してくれるはずです。

人的資本経営の開示と企業価値の向上

少し視座を上げて、これからの経営トレンドについてお話しします。最近、新聞やニュースで「人的資本経営」という言葉を耳にしませんか? これは、人材を「コスト(費用)」ではなく「キャピタル(資本)」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値を高めようという考え方です。

投資家や金融機関は今、財務諸表(売上や利益)と同じくらい、非財務情報(ESG、特にSの社会・人材領域)を厳しくチェックしています。「この会社は従業員を大切にしているか?」「ブラック企業的なリスクはないか?」という点が、投資判断の重要なモノサシになっているのです。

経済産業省の調査データを見ても、その傾向は明らかです。「健康経営銘柄」に選定された企業の株価パフォーマンスは、市場平均(TOPIX)を長期間にわたって上回っています。また、ROA(総資産利益率)などの収益性指標においても、健康経営に取り組む企業は高い数値を維持していることが実証されています。

つまり、健康経営にかける費用は、単なる「福利厚生費」ではありません。将来の企業価値を高め、株価や資金調達を有利にするための「戦略投資」なのです。今後は、ISO 30414(人的資本情報開示の国際規格)などのグローバル基準に対応したレポーティングができるかどうかも、企業の競争力を左右する大きな要素になってくるでしょう。

(出典:経済産業省『健康経営の推進について』https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

2026年以降の健康経営の市場トレンド

最後に、少し先の未来、2026年以降の健康経営がどうなっていくのかを予測してみましょう。結論から言えば、要件は「より厳しく」、内容は「より高度」になります。

これまでの健康経営は、「健康診断を100%受けさせましょう」「ストレスチェックをやりましょう」といった、法令遵守プラスアルファの基礎的な取り組みが評価されてきました。しかし、参加企業が増え、制度が成熟するにつれて、認定のハードルは年々上がっています。

特に注目すべきトレンドは2つあります。

1. 「質」への転換と新領域の拡大

単に制度があるだけでなく、「それが実際に機能しているか」「従業員のパフォーマンス向上に寄与しているか」という質が問われるようになります。また、評価項目も多様化しています。例えば、「プレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)」や「女性特有の健康課題(更年期障害や月経随伴症状など)」への対応が新たに評価軸として加わってきています。ダイバーシティ&インクルージョンの文脈とも深く結びついているのです。

2. DXとデータドリブン健康経営

アナログな管理は限界を迎えます。PHR(Personal Health Record:個人の健康診断結果やライフログ)をアプリで一元管理し、AIが個々人に最適な健康行動をリコメンドする。あるいは、企業の健診データと健康保険組合のレセプトデータ(医療費データ)を突き合わせて分析する「コラボヘルス」が加速します。 「なんとなく体に良さそう」という感覚的な施策から、データという客観的証拠に基づいた科学的なアプローチへと、完全にシフトしていくでしょう。

戦略的な健康経営コンサルティングのまとめ

ここまで長い文章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。健康経営コンサルティングの世界、少しクリアになりましたでしょうか。

最後に、この記事の要点をもう一度整理しておきます。

この記事の重要ポイント

  • 費用相場: 中小企業向けは年間50〜200万円が標準。大企業向けは1,000万円超もあり得る。
  • コスト圧縮術: 「働き方改革推進支援助成金」などを賢く組み合わせれば、実質負担を数百万円単位で減らせる可能性がある。
  • リスク管理: 「実質0円」には保険やシステムの抱き合わせ販売リスクがあるため、契約内容は隅々まで確認する。
  • 選び方の極意: 「実績の質(ブライト500等)」「有資格者の在籍」「料金の透明性」の3点でパートナーを見極める。
  • 未来予測: 2026年以降は、データ活用や女性の健康課題など、より「質」の高い健康経営が求められる。

健康経営は、これからの人口減少社会を生き残る企業にとって、「あれば良いもの(Nice to have)」から「なくてはならないもの(Must have)」へと変貌しました。従業員が健康で活き活きと働く会社には、自然と人が集まり、イノベーションが生まれ、業績も伸びていきます。これは理想論ではなく、データが証明する事実です。

もし、自社だけで進めることに不安があったり、「うちはどの助成金が使えるの?」「今の予算でどこまでできる?」といった疑問をお持ちの場合は、ぜひ一度、信頼できる専門家の扉を叩いてみてください。最初の一歩を踏み出すことが、会社の未来、そして何より大切な従業員とその家族の笑顔を守ることに繋がります。

あなたの会社の健康経営が実りあるものになることを、心から応援しています。

※本記事の情報は2025年時点のデータおよび予測に基づいています。助成金の要件や認定基準は年度ごとに変更されることがありますので、必ず各省庁・団体の最新の公募要領やガイドラインをご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談されることをお勧めします。

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