
健康経営優良法人の認定を目指して活動を始めたものの定款変更まで必要なのかと疑問に思っていませんか。
確かに社内の掲示板に目標を貼るだけでも審査の加点対象にはなりますが、銀行融資や助成金の審査といった対外的な信用を勝ち取る場面では会社の憲法である定款の記載内容がものを言います。
定款の事業目的を変更することは単なる形式的な手続きではなく経営者の本気度を社会に示す最強の意思表示なのです。
この記事では行政書士の視点から健康経営を定款に反映させる具体的なメリットやそのまま使える条文の記載例についてわかりやすく解説します。
- 金融機関や役所からの信用度が劇的に変わる法的な理由
- リスク管理として知っておきたい安全配慮義務と定款の関係
- コピペで使える事業目的の具体的な条文テンプレート
- 電子定款を活用してコストを抑えて変更手続きを行う方法
健康経営で定款の事業目的を変更すべき理由
「定款(ていかん)」とは、会社を設立する際に必ず作成する「会社の憲法」のようなものです。
多くの経営者の方は、設立時に作ったきりで、その後は見返したこともないかもしれませんね。変更手続きには手間も費用もかかるため、「今のままで問題ないなら触りたくない」というのが本音ではないでしょうか。
しかし、健康経営を本気で推進し、それを企業の成長につなげたいのであれば、定款の「事業目的」を見直し、変更することを強くおすすめします。
「なぜわざわざ面倒な手続きをするのか?」その明確な理由とメリットを、法務のプロである行政書士の視点で掘り下げて解説します。
金融機関からの信用獲得と融資への好影響
銀行や信用金庫などの金融機関が、融資の審査(特に新規融資や大型の設備投資融資)をする際に必ず確認する公的書類があります。
それが「履歴事項全部証明書(いわゆる登記簿謄本)」です。ここには、定款で定められた「事業目的」が記載されています。
もし、あなたの会社が「従業員の健康を大切にするホワイト企業」として、銀行が提供する「健康経営格付融資」などの優遇金利を受けたいと申請したとしましょう。
銀行の融資担当者は、決算書と合わせて必ず登記簿を見ます。
その時、事業目的に「健康経営の推進」や「従業員の健康保持増進に関する業務」といった文言が明記されていたらどうでしょうか。
「この会社は、口先やポーズだけでなく、株主総会の決議という法的な手続きを経てまで、健康経営を会社の『目的』として定めているのか」と、その本気度(ガバナンスの高さ)を非常に高く評価します。
逆に、事業目的が何十年も前のままで、現在の事業実態と乖離していたり、健康経営を謳っているのに定款には全く触れられていなかったりすると、「ガバナンスが効いていない会社」「社長の思いつきでやっているだけ」と判断され、審査のテーブルに乗らない可能性さえあります。定款は、会社の信用力を担保する最強の証明書なのです。
ここがポイント
定款は誰でも法務局で閲覧できる(手数料を払えば取得できる)公的な宣言です。ホームページの「社長の挨拶」やパンフレットのスローガンとは、信用の重みが全く違います。定款に書くということは、会社法に基づく手続きを経た「会社全体の意思」であることを証明するからです。
助成金申請における事業整合性の確保について
健康経営に関連する助成金(人材確保等支援助成金や、各自治体の健康づくり補助金など)を申請する際、審査官は非常に厳格なチェックを行います。彼らが最初に見るのは、「この会社は本当にその事業を行っているのか(行う意思があるのか)」という点です。
例えば、健康増進のための設備投資(トレーニングマシンの導入やリラクゼーションルームの設置など)や、外部講師を招いた研修費用を助成金で賄おうとした場合を想像してみてください。もし、定款の事業目的にそれに関連する記載が一切ないと、「事業との整合性が取れない」「単なる社長の個人的な趣味ではないか」と疑われ、不支給となるリスクがゼロではありません。
特に、自社で培った健康経営のノウハウを活かして、「健康経営コンサルティング事業」や「ヘルスケア関連事業」を新規事業として立ち上げたい場合はなおさらです。定款の目的に記載しておくことで、「これは当社の正当な事業活動である」と胸を張って主張でき、スムーズな審査通過につながります。定款は、いざという時に会社を守り、資金調達を助ける「転ばぬ先の杖」として機能するんですよ。
(出典:厚生労働省『雇用関係助成金検索ツール』)
会社の憲法に明記する本気度とブランディング
定款に記載することは、対外的な信用だけでなく、社内的なブランディング(インナーブランディング)にも大きな効果を発揮します。
中小企業では、社長の交代や担当者の退職によって、それまで熱心だった取り組みが急に立ち消えになることがよくあります。しかし、定款に記載された「目的」は、会社が存在する限り、また株主総会で再び変更決議をしない限り、残り続けます。つまり、健康経営を「一時的なブーム」や「今の社長の趣味」で終わらせず、「会社のDNA」として半永久的に刻み込むことができるのです。
また、採用活動においても強力な武器になります。今の求職者は、ブラック企業を極端に恐れています。面接や会社説明会で、「うちは定款に『社員の健康を守る』と書いている会社だよ。法務局に登記もしているんだ」と伝えることができれば、これ以上ない「ホワイト企業証明」になります。優秀な人材は、こうした企業の「姿勢」や「覚悟」を敏感に感じ取ります。「口だけではない会社だ」という信頼感は、採用ミスマッチを防ぎ、定着率向上にも寄与するでしょう。
安全配慮義務の履行姿勢を定款で強化する法的効果
ここが今回の記事で行政書士として最もお伝えしたい、リスク管理(コンプライアンス)の核心部分です。
会社には、労働契約法第5条により「安全配慮義務」が課せられています。これは、従業員が生命・身体の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務のことです。具体的には、長時間労働の是正やメンタルヘルス対策などが含まれます。
もし過労死やメンタル不調が起きたら?
万が一、従業員が健康を損ない、労災認定や損害賠償請求訴訟などのトラブルになった際、裁判所は「会社が日頃からどのような姿勢で安全配慮義務に向き合っていたか(予見可能性と結果回避義務)」を厳しく問います。
この時、定款の事業目的に「従業員の健康保持増進」を掲げ、それに基づいた予算組みや活動(定期健診、ストレスチェック、ハートマスの導入など)を行っていたという事実は、会社が安全配慮義務を誠実に履行しようとしていた強力な証拠(法的防衛材料)の一つになり得ます。
もちろん、「定款に書いてあるのに実態は何もしていない」のは悪質とみなされ逆効果ですが、「定款に書き、実際にやっている」のであれば、それは会社の法的防衛力を高める強力な盾となります。コンプライアンス重視の経営者様には、この「法務による守り」の観点からも、定款変更を強く推奨します。
(出典:e-Gov法令検索『労働契約法』)
電子定款なら印紙代0円で変更できるメリット
「定款変更が良いことはわかったけど、費用がかかるんでしょ?」と心配される方も多いですよね。確かに、コスト意識は経営者にとって重要です。
通常、会社設立時に「紙」で原始定款を作成する場合、印紙税として4万円がかかります。しかし、既存の会社の定款を変更する場合(株主総会議事録を作成して変更する場合)は、そもそも定款自体に印紙は不要です。必要なのは、法務局での変更登記にかかる「登録免許税(3万円)」のみです。
さらに、もし「原始定款(最初に作った定款)」自体を新しく作り直して、紙から電子データに移行したい場合でも、私が専門とする「電子定款」であれば、印紙代4万円は0円(完全無料)になります。
つまり、実質3万円の登録免許税と、専門家への報酬だけで、会社の信用と法的基盤を強化できるのです。数百万円の融資が受けやすくなったり、助成金の審査が通りやすくなったりするリターンを考えれば、これは非常にコストパフォーマンスの良い投資だと思いませんか?
株主総会の特別決議が必要な法的プロセス
定款の事業目的を変更するには、法律で定められた厳格なプロセスが必要です。社長の一存で勝手に書き換えることはできません。会社法の手続きに則って進める必要があります。
- 株主総会の招集:株主に対して招集通知を送ります(非公開会社であれば短縮も可能)。
- 特別決議:株主総会において、議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。これを「特別決議」と呼びます。事業目的の変更は会社の根幹に関わるため、通常の決議(過半数)よりも厳しい要件になっています。
- 議事録の作成:変更を決議したことを証明する「株主総会議事録」を作成します。ここに「第○号議案 定款一部変更の件」として記載します。
- 登記申請:決議から2週間以内に、管轄の法務局へ変更登記申請を行います。
ひとり社長や同族経営の会社であれば、実質的に社長の決定ですぐに進められますが、書類上はこれらの手続きを完璧に残しておく必要があります。ここが曖昧だと、後で税務調査や銀行審査が入った時に否認されるリスクがあります。ここが行政書士の腕の見せ所ですね。
(出典:法務省『商業・法人登記の申請書様式』)
健康経営を定款に反映させる具体的な記載例
それでは、具体的にどのような文言を定款の「事業目的」に追加すればよいのでしょうか。ここでは、そのままコピペして使える記載例をいくつか紹介します。自社の方向性や、将来やりたい事業に合わせてアレンジして使ってください。
【実例】シンプルに健康保持増進を掲げる条文
まずは、最も標準的で汎用性の高い条文例です。健康経営優良法人の認定を目指す多くの企業が、このパターンを採用しています。あらゆる業種の企業に違和感なく追加できる内容です。
記載例パターン1(スタンダード)
- 従業員の健康保持増進に関する取り組み
- 健康経営の推進及びコンサルティング業務
- 労働環境の整備及び福利厚生に関する業務
ポイントは、「健康経営の推進」だけでなく、将来的にそのノウハウを他社に提供する可能性も見越して「コンサルティング業務」と入れておくことです。これにより、健康経営自体をコストセンターではなく、プロフィットセンター(収益事業)にする道も開けます。
【応用】メンタルヘルスや福利厚生を含む条文
さらに一歩進んで、メンタルヘルス対策や具体的な健康増進サービスを行う意思を示す場合の条文例です。特に私が推奨しているハートマスなどを導入し、本格的に取り組む企業におすすめです。
記載例パターン2(アドバンス)
- メンタルヘルス対策及びストレスチェックに関する業務
- 心理カウンセリング及び健康指導業務
- 福利厚生サービスの企画、運営及び管理
- リラクゼーションサロンの経営及び健康器具の販売
- バイオフィードバック装置を用いた能力開発事業
例えば、社内で「ハートマス」のトレーナーを育成し、社員向けの研修を行うだけでなく、グループ会社や取引先にも研修を提供する場合などは、こうした記載があると事業としての整合性が完璧になります。「健康器具の販売」を入れておけば、社内で使う健康グッズを経費で購入する際の説明もしやすくなります。
将来の事業展開を見越した目的追加のポイント
定款変更には登録免許税(3万円)がかかります。一度に変更しても、何度かに分けて変更しても、その都度3万円がかかります。ですので、どうせ変更するなら、健康経営に関することだけでなく、将来やりたい事業もまとめて追加しておくとお得です。
「いつか自社の健康ノウハウでセミナーをやりたい」なら「セミナー、研修の企画及び運営」。「健康食品を売りたい」なら「健康食品、サプリメントの販売及び輸出入」。「不動産投資をしたい」なら「不動産の賃貸、管理及び保有」。
このように、今の事業だけでなく、3年後、5年後のビジョンを定款に盛り込んでおくのが賢い経営者のやり方です。事業目的の数に制限はありませんが、あまりにも多すぎて一貫性がないと「何屋さんかわからない」と銀行に怪しまれることもあるので、メイン事業を中心に10〜20個程度に収めるのが一般的ですね。
法務局での変更登記申請と必要書類の準備
条文が決まったら、実際に登記申請を行います。法務局に提出する必要書類は以下の通りです。これらは不備があると受理されないため、正確に作成する必要があります。
| 必要書類 | 備考 |
|---|---|
| 変更登記申請書 | 法務局指定の様式で作成します。変更する「目的」や登録免許税額を記載します。 |
| 株主総会議事録 | 事業目的の変更を決議した証拠書類です。開催日時、場所、出席株主数、決議内容を正確に記載し、会社実印を押印します。 |
| 株主リスト | 議決権数上位の株主(上位10名または議決権割合2/3に達するまで)を記載したリストが必要です。不正な登記を防ぐために必須となりました。 |
| 定款(変更後) | 提出は必須ではありませんが、変更後の最新定款として会社保存用に作成し、銀行提出用などに備えます。 |
| 委任状 | 代理人(司法書士など)に依頼する場合に必要です。 |
これらの書類には、会社の実印(代表者印)が必要です。また、申請書には登録免許税として3万円分の収入印紙を貼付します(オンライン申請の場合は電子納付も可能です)。
専門家に依頼して電子定款変更するメリット
ここまで読んで、「自分でやるのは難しそうだな…」「書類作成に時間を取られたくないな」と思われたかもしれません。実際、登記申請書の作成や、目的に使用できる文言のチェック(適格性の確認)は、専門的な法務知識が必要です。
もし書類に一文字でも不備があれば、法務局から呼び出しを受け、訂正印を持って何度も足を運ばなければなりません。経営者であるあなたの時給を考えれば、ここを自分でやるのは非常にコストパフォーマンスが悪いと言えるでしょう。
当事務所のような専門家に依頼すれば、以下のメリットがあります。
専門家に頼む3つのメリット
- 法的に有効な条文の提案:ただ書くだけでなく、助成金や融資審査に有利な文言、将来のリスクを回避する文言をプロの視点でアドバイスします。
- 手続きの完全代行:面倒な書類作成から申請まで丸投げできます(※登記申請自体は提携司法書士が行いますので安心です)。
- 電子定款対応:最新の電子定款を作成し、印紙代を節約しつつ、スピーディーに変更が完了します。
健康経営と定款変更について迷った時のまとめ
健康経営において、定款変更は法的な義務ではありません。しかし、会社を強くし、対外的な信用を勝ち取るためには、極めて有効な「投資」です。
- 信用獲得:銀行や取引先に、登記簿を通じて「本気度」を証明できる。
- リスク管理:安全配慮義務を履行する企業姿勢を法的に示し、万が一のトラブルに備える。
- 将来への布石:助成金の受け皿を作り、コンサルティング等の新規事業の可能性を広げる。
たった数行の条文を追加するだけで、会社の在り方や見られ方がガラリと変わります。これはコストではなく、未来への布石です。
「自社の場合はどんな条文を入れるのがベストか相談したい」
「ついでに紙の定款を電子定款に変えて、すっきりさせたい」
そうお考えの方は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。行政書士としての法務知識と、ハートマス認定のメンタルヘルス知識を掛け合わせ、御社に最適な「攻めと守りの定款」をご提案いたします。
送信済み
健康経営は「投資」になる?中小企業が得する3つの金銭的メリット
こんにちは。行政書士の小野馨です。
経営者の方とお話ししていると、健康経営についてこんな本音を漏らされることがよくあります。
「小野さん、社員の健康が大事なのはわかるよ。でもね、売上に直結しないことにコストや時間をかける余裕はウチにはないんだよ」
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。中小企業の経営において、1円でも利益につながらない出費は「悪」です。キャッシュフローが命綱である以上、リターンの見えない施策にお金を使うわけにはいきませんよね。しかし、もし健康経営が単なる「コスト(経費)」ではなく、将来的にキャッシュフローを改善し、数百万単位の利益を生み出す「投資」だとしたらどうでしょうか?
実は今、国や金融機関は「健康経営に取り組む企業」を露骨に優遇し始めています。この記事では、きれいごとは抜きにして、経営者が一番知りたい「健康経営の実利(金銭的メリット)」について、行政書士の視点で徹底解説します。
- 銀行融資の金利優遇や保証料減免などの金融メリット
- 返済不要の「助成金」を獲得しやすくなる仕組み
- 採用コストの削減と「見えない人件費」の圧縮効果
- これらのメリットを最大化するための「定款」の使い道
【融資・資金】銀行と国が用意している「ご褒美」の実態
まず、経営にとって最も即効性があり、かつインパクトの大きい「お金」の話から始めましょう。健康経営優良法人の認定を取得することは、金融機関に対して「この会社は倒産リスクが低い優良企業です」という、最強の証明書を提示するのと同じ効果を持ちます。
【融資】金利優遇と信用保証料の減免措置
「健康経営にお金をかけると、経費が増えて銀行の評価が下がる」と思っていませんか? それは完全に逆です。むしろ今は、健康経営をやっていない会社の方が、将来的なリスクが高いと判断されかねない時代なんです。
現在、地方銀行や信用金庫、メガバンクを含めた多くの金融機関が、「健康経営格付融資」や「健康経営サポートローン」といった独自の商品を展開しています。これは、健康経営優良法人の認定企業や、協会けんぽに「健康宣言」をしている企業に対し、通常よりも優遇された金利でお金を貸すというものです。
なぜシビアな銀行がそんな「ご褒美」をくれるのでしょうか? もちろんボランティアではありません。銀行は膨大なデータ分析の結果、ある真実に気づいているからです。「従業員の健康を組織的に管理できている会社は、離職率が低く、生産性が高く、不祥事も少ない。結果として、貸し倒れする確率が極めて低い」という事実を。つまり、銀行にとって健康経営に取り組む企業は、喉から手が出るほど貸したい「上客」なのです。
具体的な金融メリットの例
- プロパー融資の金利優遇:金融機関のランク付けにおいて加点評価され、基準金利から0.1%〜数%の引き下げが行われるケースがあります。融資額が大きければ大きいほど、この0.1%の重みは利益を左右します。
- 信用保証料の割引:各都道府県の信用保証協会が、認定企業の保証料率を割り引く制度を設けています。例えば保証料が0.1%下がるだけでも、数千万、数億の融資となれば、数十万円単位のキャッシュアウトを防げます。
- 私募債の発行手数料優遇:銀行引き受けの「健康経営応援私募債」などを発行する際、手数料の一部免除や、発行手数料の一部を健康関連団体へ寄付するなどの特典がつきます。
認定取得にかかるコスト(申請手数料は無料、活動費も工夫次第で0円)と、これらの金利削減効果(=利益)を天秤にかけてみてください。明らかに「黒字」になるケースが多いはずです。これはもはや、やらない方が損をするレベルの話だと思いませんか?
(出典:経済産業省『健康経営の推進について(インセンティブ措置)』)
【助成金】人材確保等支援助成金などの加点要件
融資はあくまで「返すお金」ですが、国には「返さなくていいお金」、つまり助成金も用意されています。健康経営に取り組むことで、これらの助成金の受給ハードルが下がったり、審査で有利になったりすることをご存知でしょうか。
代表的なのが、厚生労働省が管轄する「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」です。この助成金は、離職率を下げるための「評価処遇制度」や「研修制度」、そして「健康づくり制度」を導入し、目標を達成した場合に支給されます。
具体的には、以下のような流れで「健康経営」と「助成金」がリンクします。
助成金活用のフロー
- 健康経営の一環として、外部のメンタルヘルス研修や、法定外の健康診断(人間ドック補助、歯科検診など)を新たに導入する。
- これを「就業規則」や「労働協約」に明記し、管轄の労働局に計画を提出する。
- 計画通りに実施し、その結果、離職率が目標値まで低下すれば、57万円(生産性要件を満たせば72万円)が支給される。
要するに、健康経営のために使ったコストの一部、あるいはそれ以上の金額を、国が後から補填してくれるイメージです。また、自治体によっては独自の「健康経営推進補助金」を出しているところもあります。例えば、受動喫煙対策のための工事費補助や、健康機器の購入補助などです。
これらの情報は、自分から取りに行かないと誰も教えてくれません。「健康経営はお金がかかる」と嘆く前に、使える制度がないか探してみる。これを知っている経営者だけが、賢く資金を回せるのです。
(出典:厚生労働省『事業主の方のための雇用関係助成金』)
【入札】公共事業の入札加点と公共調達の優遇
もし御社が建設業や設備業、物品販売、ビルメンテナンス業などで、国や自治体の公共事業に関わっている(あるいは今後関わりたい)と考えているなら、健康経営はもはや「必須科目」と言っても過言ではありません。
現在、国土交通省をはじめ多くの自治体が、公共工事の入札参加資格審査(いわゆる経営事項審査、経審)において、「健康経営優良法人の認定企業」や「健康企業宣言を行っている企業」を加点評価する仕組みを導入しています。入札の世界では、技術力や価格競争力が拮抗している場合、わずか1点、2点の差で億単位の案件が取れるかどうかが決まることがありますよね。
競合他社に負けないために
「技術力には自信があるのに、総合評価方式でなぜか競合他社に負けた」
あとで蓋を開けてみたら、その原因が「健康経営優良法人の認定マークを持っているかどうか」の加点差だった、という事例は珍しくありません。
公共事業の入札において、健康経営はもはや「他社との差別化要因」ではなく、「同じ土俵に立つための参加チケット」になりつつあります。この流れは今後さらに加速し、民間取引においても「取引条件」として健康経営の有無が問われる時代が来るでしょう。
(出典:国土交通省『経営事項審査の主な改正事項』)
【人・組織】見えないコストを削減する「守り」のメリット
ここまでは分かりやすい「現金(キャッシュ)」の話でしたが、実は経営にもっと深刻かつ長期的なダメージを与える「見えないコスト」の削減効果についても触れておく必要があります。それは、経営者の悩みのタネである「人」に関するコストです。
【採用】求人費用の削減と採用ミスマッチの防止
「高いお金を払って求人広告を出しても応募が来ない」「人材紹介会社に年収の35%もの紹介料を払って採用したのに、3ヶ月で辞めてしまった」
こんな経験はありませんか? 経営者の悩みのトップは常に「人」です。実は、健康経営はこの採用コストを劇的に下げる特効薬になり得ます。
今の求職者、特にこれから会社を支える20代〜30代の若手層や、引く手あまたの優秀なエンジニア層は、給与額と同じくらい、あるいはそれ以上に「労働環境(ブラック企業ではないか)」をシビアに見ています。彼らが企業選びの際の「フィルター」にしているのが、「健康経営優良法人」のロゴマークです。
経済産業省の調査によると、就活生の親の約7割が「子供には健康経営に取り組む企業に就職してほしい」と回答しています。認定マークがあるだけで、求人票の信頼度が跳ね上がり、閲覧数が増え、応募者の質が高まります。結果として、求人広告費をかけなくても人が集まり、高額な紹介手数料を削減できるのです。もし1人の採用コストが100万円かかるとすれば、離職を1人防ぐだけで、売上ではなく「利益」で100万円出たのと同じ効果があるわけです。
(出典:経済産業省『健康経営の概要』)
【生産性】プレゼンティーズム(不調による損失)の解消
「欠勤はしていないけれど、なんだか体調が悪くて仕事がはかどらない」「花粉症や腰痛で集中できず、ミスを連発している」
この状態を専門用語で「プレゼンティーズム(Presenteeism)」と言います。対して、欠勤や休職の状態は「アブセンティーズム」と言います。
実は、企業の健康関連コストの中で、医療費や欠勤(アブセンティーズム)による損失よりも、このプレゼンティーズムによる「見えない生産性低下」の損失の方が、圧倒的に大きいことが様々な研究で分かっています。一説には、健康関連総コストの約6割〜7割を占めるとも言われています。
メンタル不調や慢性的な睡眠不足、腰痛を抱えたまま社員を働かせても、ミスが増え、そのリカバリーで残業代がかさみ、会社の利益を食いつぶすだけです。ここで重要になるのが、私が推奨している「ハートマス(HeartMath)」のような科学的アプローチです。
科学で生産性を買うという発想
ハートマスを導入し、ウェアラブルセンサーで社員の自律神経の状態を可視化・調整することで、集中力や判断力(コヒーレンス)を高めることができます。これは単なる福利厚生ではなく、「生産性向上のための設備投資」です。
「気合で頑張れ」という精神論ではなく、科学的なメソッドで社員のコンディションを整える。これにより、同じ給与(人件費)でより高いアウトプットを引き出すことが可能になります。
【戦略】そのメリットを確実に引き出すための「定款」活用術
ここまで、融資、助成金、採用といった「実利」をお伝えしましたが、これらを絵に描いた餅にせず、確実に「自社のもの」にするために、絶対にやっておくべきことがあります。
それは、「会社の憲法である定款(ていかん)を変えること」です。
【本気度】銀行や国は「事業目的」を見ている
銀行の融資担当者や、役所の審査官、あるいは大企業の取引担当者は、会社のどこを見て「本気度」や「信用」を判断すると思いますか? 社長の熱弁でしょうか? きれいな会社案内パンフレットでしょうか?
いいえ、違います。彼らが最も重視するのは、法務局で誰でも取得できる「履歴事項全部証明書(登記簿)」、つまり定款の内容です。
定款の「事業目的」の欄に、「従業員の健康保持増進に関する取り組み」や「健康経営の推進」といった文言が入っているかどうか。これは法的に非常に大きな意味を持ちます。「口先だけでなく、株主総会の特別決議という重い手続きを経て、会社の根本規則に刻み込んでいる」という事実は、金融機関の格付審査や、助成金の整合性チェックにおいて、強力な加点材料になります。
逆に言えば、いくら健康経営をアピールしても、定款の目的が何十年も前のままで実態と合っていなければ、「この会社はガバナンスが効いていない」と判断されるリスクさえあるのです。
【電子定款】印紙代0円で「信用」を買う裏ワザ
「定款変更が大事なのは分かったけど、費用がかかるのでは?」と心配されるかもしれません。確かに、通常の手続きでは費用が発生します。
特に、従来の「紙の定款」を新しく作り直す(原子定款を作成する)場合、印紙税として4万円がかかります。コスト削減のために健康経営をやるのに、ここで4万円払うのは馬鹿らしいですよね。
しかし、ここでプロの知識を使ってください。私が専門としている「電子定款」であれば、この印紙代4万円は0円(完全無料)になります。
電子定款は、紙ではなくPDFデータとして作成し、電子署名を付与するものです。行政書士への報酬を含めても、数万円程度の投資で済みます。たった数万円で、会社の法的基盤を整え、数百万、数千万単位の融資や助成金を引き出しやすい「信用体質」に変えられるとしたら、これほど効率の良い投資(ROIの高い施策)は他にありません。これこそが、行政書士が提案する「攻めの健康経営」です。
【結論】健康経営は「コスト」ではなく最強の「投資」である
結論を申し上げます。健康経営は、社員のためだけのボランティア活動ではありません。会社のお金を守り、増やし、組織を強くするための、極めて合理的かつ戦略的な「経済活動」です。
- 金融メリット:低金利融資や保証料減免を活用し、キャッシュフローを改善する。
- 採用メリット:求人費を下げ、ミスマッチのない優秀な人材を引き寄せる。
- 法的メリット:定款変更で対外的な信用力を底上げし、ガバナンスを強化する。
この3つを連動させることが、経営者視点での「健康経営の正解」です。
もし、あなたが「ただ認定のロゴマークを取るだけでなく、実利につなげたい」「会社を次のステージに進めたい」とお考えなら、まずは会社の土台である「定款」の見直しから始めてみませんか?
当事務所では、健康経営優良法人の認定を見据えた「戦略的な電子定款作成」をワンストップでサポートしています。また、生産性を高めるための「ハートマス導入支援」も行っております。
「融資に強い定款にしたい」「助成金が取れる規定に整えたい」
そのようなご相談を、いつでもお待ちしております。健康経営を武器に、御社の経営をより盤石なものにしていきましょう。
定款変更から融資、販路開拓までワンストップで解決
健康経営をテコに会社を強くするには、「定款」や「資金調達」といった基盤作りが欠かせません。しかし、税理士、社労士、コンサルタント…と、バラバラに依頼するのは手間もコストもかかります。
私たちは、強力な提携プラットフォームと連携し、それら全てを一箇所で完結させる「起業支援エコシステム」を構築しました。
- 電子定款:印紙代0円&信用獲得できる戦略的定款を作成
- 創業融資サポート:プロの支援でキャッシュフローを安定化
- 営業代行:健康経営認定を武器に販路を拡大
行政書士としての「法務視点」と、ビジネスの「実利」を組み合わせた、最短ルートで強いマイクロ法人を作る方法を公開しています。