認定・補助金・融資

健康企業宣言の「銀の認定」とは?基準や金の認定との違い

小野馨

こんにちは。行政書士の小野です。

今回は、「健康企業宣言の銀の認定とは?基準や金の認定との違い」というテーマで徹底解説します。

ぜひ、最後までご覧ください。

会社経営において「健康経営」という言葉を耳にすることが増えたのではないでしょうか。

特に中小企業において、従業員の健康を守り、活気ある職場を作るための第一歩として注目されているのが「健康企業宣言」です。

ポイント

中でも「健康企業宣言の銀の認定」は、健康優良企業としての公的なお墨付きを得られる制度であり、採用や資金調達など多くのメリットがあります。

今回は、銀の認定の取得基準や具体的なメリット、申請の流れについて解説します。

  • 銀の認定を取得するための80点以上の採点基準と必須項目
  • 健康企業宣言の申請から認定までの具体的なステップ
  • 認定取得による融資優遇や助成金活用などの経営メリット
  • 健康経営優良法人認定へのステップアップとしての活用法

達成基準は80点以上で健診受診率は100%が必須

健康企業宣言における「銀の認定」を取得するためには、協会けんぽ東京支部や健保連東京連合会が定める採点基準をクリアする必要があります。

具体的には、用意されたチェックシートの項目を自己採点し、100点満点中80点以上を獲得することが合格ラインとなります。

ただし、単に点数を積み上げれば良いというわけではありません。

ここで最も高いハードルとなるのが、「健診受診率100%」が実質的な必須条件(足切り条件)となっている点です。

これは、労働安全衛生法で義務付けられている定期健康診断を、対象となる従業員全員が受診していることを意味します。

もし受診率が100%未満の場合、他の項目でどれだけ高得点を取っても、原則として認定されることはありません。

(正当な理由がある場合の除外規定などは要確認)。

多くの企業がつまずくのが、この「100%」の壁です。「忙しいから行かない」「健康に自信があるから不要」と受診を拒む従業員に対し、会社としてどのように受診勧奨を行い、実施させるかが最初の難関となります。

就業規則に受診義務を明記したり、業務時間内に受診させたりするなど、強制力と配慮をバランスよく組み合わせた対応が求められます。

(出典:関東ITソフトウェア健康保険組合『「銀の認定」の申請について』

チェックシートの項目を確認して申請の準備をする

申請の準備は、まず「健康企業宣言Step1 チェックシート」の内容を詳細に確認することから始まります。このシートには、職場の健康づくりに関する具体的な取り組み項目が記載されており、これらがそのまま採点基準となります。

主なチェック項目のカテゴリー

  • 健診・重症化予防(必須):定期健診の受診率100%、再検査・要治療者への受診勧奨
  • 健康づくり環境の整備:担当者の設置、社内への健康情報の発信
  • :食生活の改善に向けた取り組み(ヘルシーメニューの提供や情報発信など)
  • 運動:運動機会の増進(ラジオ体操、階段利用の促進など)
  • 禁煙:受動喫煙対策、禁煙サポート
  • 心の健康:ストレスチェックの実施、相談窓口の設置

これらの項目について、自社で現在実施できているもの、これから実施できそうなものを洗い出します。80点を目指すためには、全ての項目を完璧にこなす必要はありません。自社の強み(例えば若い社員が多いなら運動、デスクワーク中心ならメンタルヘルスなど)に合わせて、点数を取りやすい項目を戦略的に選定し、重点的に取り組むことが合格への近道です。

銀の認定と金の認定の難易度や取り組みの違い

健康企業宣言には「銀の認定(Step1)」と、その上位にあたる「金の認定(Step2)」の2段階があります。いきなり金を目指すことはできず、銀の認定を取得し、維持している企業だけが金に挑戦できる仕組みになっています。

認定区分 対象・フェーズ 主な特徴と難易度
銀の認定(Step1) 初級・基礎

まずはここからスタート

「職場の健康づくり」がテーマ。

健診受診率100%と、基本的な環境整備ができれば取得可能。まずは「始めること」を評価する段階。

金の認定(Step2) 中級・応用

銀の認定取得後に挑戦

「健康経営」がテーマ。

健診データの分析、安全衛生委員会等の機能稼働、PDCAサイクルの実施など、より高度で自律的な運用が求められる。

銀の認定は「健康づくりの基礎固め」と位置付けられており、まずはここをクリアすることが、国の「健康経営優良法人」認定への必須パスポートとなります。金の認定はさらにレベルが高く、労働安全衛生法に基づいた安全衛生管理体制が実質的に機能しているかどうかが問われるため、銀からのステップアップには相応の準備期間が必要です。

協会けんぽ東京支部への申込から認定までの流れ

実際に認定を取得するまでの大まかな流れは以下の通りです。この制度の特徴は、「実績を作ってから申請する」のではなく、「まず宣言し、取り組みを行い、その結果を報告する」というプロセスにあります。

  1. 健康企業宣言(エントリー):「健康企業宣言チェックシート(Step1応募用紙)」を記入し、協会けんぽ東京支部(または加入している健保組合)へFAXや郵送で提出します。これにより「宣言の証」が交付されます。これを社内に掲示することでキックオフとなります。
  2. 取り組みの実践(Do):宣言から概ね6ヶ月以上、職場で健康づくりの取り組みを行います。毎月の衛生委員会や朝礼などで進捗を確認し、活動を継続します。
  3. 実施結果レポートの提出(Check):取り組みの成果を自己採点し、「実施結果レポート」を作成します。80点以上であることを確認し、活動の証拠資料(エビデンス)を添えて提出します。
  4. 審査・認定(Act):健保連東京連合会による審査が行われ、基準を満たしていれば「健康優良企業 銀の認定証」が交付されます。審査期間は概ね1ヶ月程度を見ておくとよいでしょう。

審査で落ちないために必要なエビデンスと書類作成

審査で最も重要なのは、「取り組みを行ったことを証明できる客観的な資料(エビデンス)」です。「一生懸命やりました」という自己申告だけでは、残念ながら認定されません。審査員は提出された書類のみで判断するため、活動の記録を残すことが何より重要です。

確実に用意すべきエビデンスの例

  • 社内周知の記録:健康情報を掲示した社内掲示板の写真、全社員に送信したメールの写し(送信日時が見えるもの)、社内報など。
  • 実施記録:ラジオ体操の実施カレンダー(チェックが入ったもの)、社内ウォーキングイベントの参加者リストや集計表。
  • 健診結果:受診率100%を証明するための受診管理台帳(個人名はマスキングしても良いが、人数と受診日がわかるもの)。
  • 環境整備:設置した体重計や血圧計の写真、禁煙ポスターが貼られた喫煙所の写真など。

特に写真は「いつ実施したか」が分かるように、日付入りで撮影するか、カレンダーと一緒に撮影するなどの工夫が必要です。また、過去の取り組みではなく「宣言期間中」の取り組みであることが求められるため、日付の整合性には十分注意してください。書類作成においては、これらのエビデンスとレポートの記載内容(実施日や参加人数)に矛盾がないよう、丁寧に整合性を確認しましょう。

認定の有効期間は1年間で更新手続きが必要

銀の認定には有効期限があります。原則として認定日から1年間です。これは「一度取れば終わり」という資格ではなく、継続して健康経営に取り組むPDCAサイクルを回すことを目的としているためです。

更新時期が近づくと(満了の約2〜3ヶ月前)、健保連から更新の案内が届きます。再度「実施結果レポート」を作成し、前回からの改善点や継続状況を報告して更新手続きを行う必要があります。もし更新手続きを忘れて期限を過ぎてしまうと、認定は失効し、また最初の「宣言」からやり直しになってしまいます。特に「健康経営優良法人」の申請を予定している場合、銀の認定が切れていると申請資格を失うことになるため、更新スケジュールの管理は経営上の重要事項として扱うべきです。

登録や認定審査にかかる費用は無料である点も魅力

健康企業宣言の大きなメリットの一つは、登録料や認定審査料が無料であることです(※協会けんぽ東京支部や健保連東京連合会の場合)。

一般的に、ISO認証やプライバシーマークなどの企業認証を取得しようとすると、審査料や登録料で数十万円〜数百万円のコストがかかることが珍しくありません。

しかし、健康企業宣言は公的な支援制度の一環であるため、企業側の金銭的負担は極めて低く抑えられています

(※エビデンス作成や申請代行をコンサルティング会社に依頼する場合は別途費用がかかります)。

自社で手続きを行う分には、切手代やコピー代程度の実費で済むため、中小企業にとって、費用負担なく企業価値を高められるこの制度は、非常にコストパフォーマンスが良い「最初の一手」と言えるでしょう。

健康企業宣言の銀の認定を取得するメリットと助成金活用

銀の認定を取得することは、単なる名誉だけでなく、経営上の実利的なメリットも多くもたらします。

ここでは、資金調達や採用、助成金活用における具体的な利点を見ていきましょう。

信用保証協会の保証料割引や銀行の融資金利優遇

銀の認定を取得している企業は、金融機関から「従業員を大切にしており、経営基盤が安定している」「将来的な法的リスクや労働リスクが低い」と評価されやすくなります。

その結果、資金調達において有利な条件を引き出せる可能性が高まります。

主な金融インセンティブ

  • 信用保証料の割引:例えば東京信用保証協会では、銀の認定を受けた企業に対して、保証料率を所定の料率から0.1%割引する優遇制度などを設けている場合があります。
  • 融資金利の優遇:多くの地方銀行や信用金庫が、「健康経営応援ローン」などの名称で、認定企業向けの専用融資商品を用意しています。通常金利より優遇されたレートで融資を受けられるため、支払利息の削減に直結します。

これらの優遇措置を受けるためには、融資申し込み時に「認定証の写し」の提出が必要となります。

資金調達を検討している段階であれば、早めに認定取得に向けて動くことが財務戦略上も有効です。

(出典:東京信用保証協会『健康企業応援・ダイバーシティ推進保証制度』

人材確保等支援助成金など健康経営で使える制度

健康経営に関連する取り組みは、厚生労働省の助成金の対象となることがあります。

「銀の認定」を取得するプロセスで整備した環境や制度が、そのまま助成金の受給要件を満たすケースも少なくありません。

  • 人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)「健康づくり制度」:法定の健康診断に加えて、人間ドックや生活習慣病予防検診などの「法定外の健康づくり制度」を新たに導入し、従業員に実施させた上で、離職率を低下させるなどの要件を満たすと、最大57万円(生産性要件満たす場合)などの助成が受けられる制度です。銀の認定の取り組みと親和性が非常に高いです。
  • 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース):残業時間の削減や有給休暇の取得促進に向けた取り組み(労務管理用機器の導入や研修など)に対して、費用の一部が助成されます。健康経営の「働き方改革」分野のスコアアップに直結します。

※助成金の要件は年度ごとに変更されることが多く、予算上限に達すると早期に締め切られる場合もあります。申請前には必ず厚生労働省の最新の公募要領を確認するか、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

認定企業として求人票に記載し採用力を強化する

採用市場において、「健康経営に取り組んでいる企業」というブランドは強力な武器になります。

特に近年は、学生や求職者(およびその親)が「ブラック企業」を極端に避け、安心して長く働ける職場を求める傾向が強まっています。

銀の認定を取得すれば、ハローワークの求人票や自社の採用サイト、名刺などに「健康優良企業」のロゴマークを掲載できます。

これにより、「うちは従業員の健康を大切にするホワイト企業です」ということを客観的にアピールでき、応募数の増加や内定辞退の防止につながります。

実際、認定取得後に求人への応募数が増えたという事例は枚挙にいとまがありません。

建設業などは公共工事の入札加点評価の対象に

建設業などの一部の業種では、公共工事の入札参加資格審査(経営事項審査など)において、健康企業宣言や健康経営優良法人の認定が加点評価の対象となる自治体が増えています。

公共事業をメインに行っている企業にとって、入札ランクのアップや指名競争入札への参加資格獲得は、会社の売上を左右する死活問題です。

銀の認定取得は、単なる福利厚生の枠を超えて、事業の受注機会を広げ、売上を確保するための極めて重要な「経営戦略」となります。

健康経営優良法人の中小規模法人部門へ申請可能になる

経済産業省が認定する「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」は、いまや全国で1万社以上が認定されるメジャーな制度であり、企業ブランディングのスタンダードになりつつあります。

しかし、この認定に申請するためには「前提条件」があります。

東京都内の企業(協会けんぽ東京支部や健保連東京連合会の会員など)の場合、原則として「銀の認定」を取得していることが、健康経営優良法人への申請資格となります。

つまり、「ブライト500」などの上位認定を目指す場合でも、まずはこの銀の認定を取得しなければ、スタートラインに立つことさえできません。

銀の認定取得はゴールではなく、より高いレベルの健康経営を目指すための「必須のパスポート」と捉えるべきです。

健康企業宣言の銀の認定から始めて効率よく継続しよう

健康経営は、一朝一夕で成果が出るものではありません。

いきなり高い目標を掲げて、高額なジムと契約したり、全社員にウェアラブル端末を配ったりしても、現場がついてこなければすぐに形骸化してしまいます。

まずはハードルの低い「銀の認定」からスタートし、「まずはラジオ体操から」「まずは自販機の飲み物をトクホに変える」といった小さな取り組みを積み重ねることが大切です。

認定取得という「小さな成功体験」を共有することで、社内に健康づくりの文化を根付かせることができます。

銀の認定というマイルストーンを設定することで、担当者のモチベーションを維持しつつ、効率よく健康経営のPDCAサイクルを回していきましょう。

健康企業宣言「銀の認定」のまとめ

健康企業宣言「銀の認定」について、その基準やメリットを解説しました。重要なポイントをまとめます。

  • 合格ライン:100点満点中80点以上。ただし「健診受診率100%」は必須条件(足切りライン)。
  • 手続き:まずは「宣言」を行い、そこから6ヶ月以上の取り組み実績を作る必要がある。
  • エビデンス:実施した証拠(写真、日付入り記録、リスト)を残すことが審査通過の鍵。
  • メリット:融資優遇、助成金活用、採用力強化、入札加点など、経営的な実利が大きい。
  • 戦略:国の「健康経営優良法人」を目指す企業にとって、避けて通れない必須ステップである。

コストをかけずに始められ、経営的なメリットも大きい「銀の認定」。まだ取り組んでいないのであれば、ぜひ貴社でもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

まずはチェックシートをダウンロードして、現状の点数を確認することから始めてみてください。

免責事項

本記事の情報は執筆時点のものです。認定基準や助成金の要件、優遇措置の内容は年度ごとに変更される可能性があります。申請の際は必ず協会けんぽ東京支部や各都道府県の労働局、各金融機関の公式サイトにて最新情報をご確認ください。

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