
こんにちは。行政書士の小野馨です。
「健康経営、興味はあるけど何から手をつければいいのかさっぱり…」
そんなご相談を、毎日のように経営者様や人事担当者様からいただきます。
今回は、そんな風にお悩みの方に「健康経営は何から始める?」0円で即日できる健康宣言と5つの手順というテーマで丁寧にお話します。
最近は取引先から取り組み状況を聞かれたり、求職者が気にしていたりと、外堀が埋まってきている感覚をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
でも、安心してください。
注意ポイント
「健康経営」といっても、いきなり高価なジムを作ったり、高機能なウェアラブル端末を全社員に配ったりする必要は全くありません。
実は、お金をかけずに、今あるリソースだけで始められることが山ほどあるんです。
大切なのは、最初の一歩をどう踏み出すか。
ここさえ間違えなければ、会社は確実に、そして良い方向に変わり始めますよ。
最後までご覧くださいね!
- 健康経営を導入するための具体的な5つのステップと成功のロードマップ
- そのままコピーして使える健康経営宣言のテンプレートと活用法
- 従業員の健康課題をデータから正確に把握するプロの手法
- 2025年の認定も見据えた効果的な目標設定とKPIの作り方
健康経営は何から始める?導入の基本ステップ
「健康経営」という言葉の響きから、なんとなく大企業向けの難しい経営戦略のように感じていませんか?
確かに奥は深いですが、導入の入り口は驚くほどシンプルで、どんな規模の会社でも実践可能です。
ここでは、全くのゼロベースからスタートする企業様に向けて、迷わずに進めるための導入ロードマップを、実務的な観点から詳しく解説していきますね。
導入ロードマップと開始手順の全体像
健康経営を成功させるために最も重要なこと、それは「思いつきで施策を打たない」ということです。
「最近流行っているから」といってヨガイベントを開催したり、「野菜不足だから」とスムージーを配ったりしても、それが自社の課題に合っていなければ、一過性のイベントで終わってしまいます。
これでは「コスト」にしかなりません。
健康経営を「投資」として捉え、リターン(生産性向上や企業価値向上)を得るためには、しっかりとした手順、いわゆるPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回す土台作りが不可欠です。
私がいつもクライアント様にご提案している導入フローは以下の通りです。
【失敗しない健康経営導入の基本フロー】
- Step1 経営トップの決意と宣言:まずは社長が「やるぞ!」と腹を決め、その想いを「言語化」して社内外に発信します。これが全ての原動力になります。
- Step2 推進体制の整備:誰が旗振り役になるのかを決めます。担当者を孤立させない体制づくりが鍵です。
- Step3 現状把握(データヘルス):健康診断結果やストレスチェックなどの客観的なデータを見て、自社の「健康通知表」を確認します。
- Step4 計画策定と目標設定:課題解決のための具体的なアクションプランと、達成度を測る物差し(KPI)を作ります。
- Step5 施策の実行と効果検証:計画に基づいて実行し、やりっぱなしにせず必ず振り返りを行います。
「えっ、こんなに段階があるの?」と思われたかもしれませんね。
でも、中小企業の強みは「スピード感」です。大企業なら承認に数ヶ月かかることも、社長の一声で即日決定できる。
この小回りの良さを活かして、まずは小さくPDCAを回し始めることが成功への近道ですよ。
活用できる健康経営宣言の例文と雛形
最初の一歩であり、かつ最も重要なのが「健康経営宣言」です。
これは単なる形式的な書類ではありません。
会社が従業員に対して「あなたたちの健康を本気で考えていますよ」というラブレターを送るようなもの。
そして社外に対しては「私たちは人を大切にするホワイトな企業です」という強力なアピールになります。
「でも、どんな文章を書けばいいの?」と迷う必要はありません。
実は、協会けんぽ(全国健康保険協会)の各都道府県支部が「健康宣言」事業を行っており、所定の用紙に記入してFAXや郵送するだけでエントリーが完了します。
これに登録すると、健康づくりのサポートを受けられたり、優良法人認定の申請資格が得られたりと、メリットだらけなんです。
もし自社独自の宣言文を作成して、ホームページや社内に掲示したい場合は、以下の雛形を参考にしてみてください。
少しアレンジするだけで、立派な宣言文になりますよ。
【健康経営宣言の例文(コピー&ペーストOK)】
〇〇株式会社 健康経営宣言
当社は、従業員が心身ともに健康で、個性や能力を最大限に発揮できる環境こそが、企業の持続的な成長の源泉であると考えています。
私たちは、従業員一人ひとりの健康保持・増進に向けた取り組みを戦略的に推進し、活気ある職場づくりに邁進することをここに宣言します。
【重点取り組み事項】
1. 定期健康診断の100%実施と事後措置の徹底
(病気の早期発見・早期治療を会社としてサポートします)
2. 職場環境の改善とコミュニケーションの活性化
(風通しの良い、ストレスの少ない職場を作ります)
3. 過重労働の防止とワークライフバランスの適正化
(仕事と私生活の調和を図り、メリハリのある働き方を推奨します)
4. ヘルスリテラシーの向上と生活習慣病予防
(従業員が自らの健康に関心を持てるよう、教育や情報発信を行います)
令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇
代表取締役社長 〇〇 〇〇
この宣言を額縁に入れてエントランスに飾ったり、全社朝礼で社長自らが読み上げたりすることで、従業員の意識は確実に変わります。
「会社が何か言い出したぞ」から「本気なんだな」に変わる瞬間を作るのが、この宣言の役割なんですよ。
推進体制の構築と担当者の重要な役割
宣言を行ったら、次は「誰が実行するか」という体制づくりです。
ここが曖昧だと、日々の業務に追われて計画が自然消滅してしまいます。
中小企業の場合、社長ご自身がリーダーとなるケースも多いですが、実務を回す担当者(総務や人事の方など)を明確に任命することをおすすめします。
ただし、担当者にすべてを丸投げするのは絶対にNGです。
「社長に言われたからやってます」というやらされ感が出た瞬間、健康経営は失敗します。
担当者の役割は、事務作業係ではなく、経営層の想いを現場に翻訳して伝え、現場の声を経営層に届ける「橋渡し役」なんです。
また、もし従業員数が50名以上の事業場であれば、「衛生委員会」の設置が義務付けられていますよね。
健康経営はこの衛生委員会と非常に相性が良いんです。
毎月の委員会の中で健康経営の議題を扱い、産業医の先生にも意見をもらう。
こうすることで、新たな会議体を設置する手間も省けますし、法的な裏付けを持った活動として推進できます。
【産業医活用のポイント】
産業医の先生を「ストレスチェックの面接をするだけの人」にしていませんか?それはもったいない!先生は医学のプロです。「うちの会社の健診結果、先生から見てどう思いますか?」と一言聞くだけで、専門的な見地から自社の課題をズバリ指摘してくれます。最近は健康経営に積極的な「攻めの産業医」も増えていますので、連携を深めていきましょう。
従業員の健康課題と現状把握のやり方
「何から手をつけるべきか」を正しく判断するためには、勘や経験ではなく、客観的なデータに基づく必要があります。
これを専門用語で「データヘルス」と呼びますが、要するに「会社の健康診断結果を徹底的に分析しましょう」ということです。
多くの企業では、健康診断をやって終わり、個人の通知を見て終わり、になってしまっています。
しかし、個人の結果から会社名や個人名を伏せて集計・分析することで、会社全体の「健康傾向」が見えてくるんです。これこそが宝の山ですよ。
具体的には、以下の指標をチェックしてみてください。
| チェック項目 | 見るべきポイント | 想定される課題と対策例 |
|---|---|---|
| 有所見率(異常ありの割合) | 全国平均や同業他社と比べて高いか?経年で悪化していないか? | 数値が高いなら、生活習慣病予備軍が多い証拠。特定保健指導の勧奨や食生活改善が必要。 |
| 喫煙率 | 男性・女性・年代別で見て、どの層が高いか? | 喫煙者が多いなら、就業時間内禁煙や禁煙外来の補助などが効果的。 |
| 高ストレス者比率 | 部署ごとに偏りはないか?(特定部署だけ異常に高いなど) | 職場環境や人間関係に問題がある可能性大。管理職研修や配置転換の検討が必要かも。 |
| 二次検診受診率 | 「要再検査」の人が実際に病院に行っているか? | ここが低いと、将来的に重病化するリスク大。受診時間の就業時間認定などを検討。 |
例えば、厚生労働省の調査によると、一般健康診断での有所見率は年々増加傾向にあり、6割近くに達しています。
自社の数字と、こうした公的な統計データを照らし合わせることで、「うちは平均より肥満が多いな」「肝機能の数値が悪い人が多いから、飲み会が多いのが原因かな?」といった具体的な仮説が立てられます。
課題が明確になれば、打つべき対策も自然と決まってきますよね。
参考リンク:(出典:厚生労働省『定期健康診断結果の概況』)
適切な目標設定とKPIの決め方
自社の課題が見えたら、次はその解決に向けた目標設定です。ここでのポイントは、精神論ではなく「測定可能な数値目標(KPI)」を設定することです。
「社員を健康にする!」という目標は素晴らしいですが、達成できたかどうか後で検証できませんよね。
健康経営のKPIは、大きく分けて「プロセス指標(実施状況)」「アウトプット指標(参加率など)」「アウトカム指標(最終的な健康状態)」の3層で考えると整理しやすいです。
いきなり結果(アウトカム)を求めすぎると挫折しやすいので、まずはプロセスやアウトプットの目標をクリアしていくことをおすすめします。
- 悪い目標例:「みんなで運動不足を解消する」
- (どうなったら達成なのか不明確で、行動に移しにくい)
- 良い目標例(プロセス):「社内ウォーキングイベントを年2回開催する」
- 良い目標例(アウトプット):「イベントへの従業員参加率を50%以上にする」
- 良い目標例(アウトカム):「健診における適正体重維持者率を〇%まで改善する」
特に重要なのは、これらの目標が「経営課題の解決」に繋がっているかという視点です。
参考
例えば、若手の離職が多いことが経営課題なら、メンタルヘルス対策やコミュニケーション活性化に関する指標を重点KPIに設定すべきです。
「健康」のためだけにやるのではなく、「経営」のためにやる。この視点を忘れないようにしましょう。
導入のメリットとデメリットの比較
ここまで前向きな話をしてきましたが、経営者としては当然「コスト」や「リスク」も気になりますよね。
良い面だけでなく、大変な面も含めて理解した上でスタートすることが、息の長い取り組みにするコツです。
ここでは忖度なしにメリットとデメリットを比較してみましょう。
【導入のメリット:企業が得られる4つの果実】
- 生産性の向上(プレゼンティーズムの解消):「出勤はしているが不調でパフォーマンスが落ちている状態」をプレゼンティーズムと言います。頭痛や腰痛、睡眠不足が解消されれば、同じ時間働いてもアウトプットの質と量は確実に上がります。
- 採用競争力の強化:今の求職者、特に若手層は「ブラック企業」を極端に警戒します。「健康経営優良法人」などの認定は、「従業員を大切にするホワイト企業」であることの客観的な証明となり、採用の強力な武器になります。
- 離職率の低下(リテンション):「会社が自分たちの健康を気遣ってくれている」という実感は、エンゲージメント(愛社精神)を高め、定着率向上に直結します。
- 企業イメージと評価の向上:一部の金融機関では、健康経営に取り組む企業に対して融資利率を優遇する商品も出てきています。社会的信用の証になるのです。
【導入のデメリット・注意点:覚悟すべきこと】
- 成果が出るまで時間がかかる(タイムラグ):今日野菜を食べたからといって、明日すぐに健康になるわけではありません。投資対効果が見えるまでには数年単位の時間が必要です。短期的な利益を求めすぎると「効果なし」と判断してしまいがちです。
- 担当者の業務負担増:専任の担当者を置ける中小企業は稀です。多くは総務や人事との兼務になるため、業務の優先順位を見直さないと、担当者が疲弊して「健康経営のせいで担当者が不健康になる」という本末転倒な事態になりかねません。
- 「おせっかい」と思われるリスク:食事や運動、喫煙といった生活習慣は、個人のプライバシーに関わる部分です。会社が踏み込みすぎると「監視されている」「余計なお世話だ」と反発を招く恐れがあります。強制ではなく、あくまで「支援」のスタンスを崩さないことが重要です。
デメリットへの最大の処方箋は、「最初から完璧を目指さないこと」です。
まずは負担の少ない施策から始め、従業員の反応を見ながら徐々に拡大していく。
この「スモールスタート」こそが、リスクを最小限に抑える賢いやり方なんですよ。
健康経営は何から始めるか決めた後の具体的施策
導入の土台ができたら、いよいよ具体的な施策(アクション)の実行フェーズに入ります。
「施策」と聞くと、何か特別なイベントを企画したり、新しい福利厚生システムを入れたりしなければならないと思っていませんか?
実は、それが大きな誤解なんです。
健康経営の施策において最も重要な考え方は、「特別なことをするのではなく、日常の風景に『健康』というタグ付けをする」ということです。
「え、それだけでいいの?」と思われるかもしれませんが、むしろその方が継続しますし、従業員の負担にもなりません。
ここでは、明日からすぐに実践できる、低予算かつハードルの低い具体的施策を厳選してご紹介します。
「これならうちでもできそうだ」というものが必ず見つかるはずですよ。
低予算でお金をかけないスモールスタート
「健康経営=お金がかかる」というイメージをお持ちの経営者様は多いですが、アイデア次第で予算ゼロ、あるいは極めて低コストで効果的な取り組みが可能です。
ポイントは、今ある設備や時間を「健康」という視点で再定義することです。
具体的に推奨している「0円施策」のリストをご紹介します。
【明日からできる0円施策リスト】
- 「ラジオ体操」の定例化:これが最強のコスパ施策です。動画サイトを使えば音源は無料。始業時や午後3時のリフレッシュタイムに全社で行います。身体をほぐすだけでなく、「みんなで同じ動きをする」ことで一体感が生まれ、コミュニケーションのきっかけにもなります。
- 「階段利用」のナッジ(仕掛け):エレベーターホールの目立つ位置に、「ここから3階まで階段を使うと〇kcal消費(おにぎり〇個分)」といったポスターを貼ります。強制はせず、「ちょっと階段で行ってみようかな」と思わせる仕掛け作りがポイントです。
- スタンディング・ミーティング:会議室の椅子を脇に寄せて、立って会議を行います。座りすぎ防止になるだけでなく、ダラダラ会議がなくなり、意思決定のスピードが上がるという副次効果(生産性向上)も期待できます。
- 健康情報の回覧・掲示:協会けんぽから定期的に送られてくる広報誌や、厚生労働省が無料で配布しているポスターを、社内の掲示板やトイレのドアの内側など、必ず目につく場所に掲示します。「会社が健康情報を発信している」という事実自体が、従業員の意識を変えていきます。
いかがでしょうか。
これらは全て、稟議書を書く必要もなく、担当者の一存ですぐに始められるものばかりですよね。
特にラジオ体操は、建設現場や工場だけでなく、デスクワーク中心のIT企業などでも導入が進んでいます。「午後の眠気が飛んで集中できる」と現場からも好評なんですよ。
また、これらの取り組みを「実施しました」という記録(写真や日誌)に残しておくことを忘れないでください。
これが後述する「健康経営優良法人認定」の申請時に、貴重なエビデンス(証拠資料)となります。「やったもん勝ち」ではなく「記録したもん勝ち」の世界でもあるのです。
活用できる助成金と公的支援制度
「お金をかけない」のも大切ですが、「もらえるお金はしっかりもらう」のも経営の鉄則ですよね。
国や自治体は、企業の健康づくりを後押しするために、様々な助成金や支援制度を用意しています。
特に使い勝手が良く、多くの企業様が活用されているのが「受動喫煙防止」や「職場環境改善」に関わる助成金です。
| 制度名・支援内容 | 対象となる取り組み例 | 活用のメリット |
|---|---|---|
| 受動喫煙防止対策助成金
(厚生労働省・都道府県労働局) |
・喫煙室の設置、改修
・換気装置の導入 ・屋外喫煙所の整備 |
工事費用の最大50%〜(上限あり)が助成されます。健康経営において受動喫煙対策は必須項目なので、これを使わない手はありません。 |
| 業務改善助成金
(厚生労働省) |
・生産性向上に資する設備投資
(例:腰痛対策のための昇降式デスク導入、労務管理システムの導入など) |
最低賃金の引き上げとセットで活用することで、設備投資費用の一部が助成されます。「健康=生産性向上」の文脈で活用可能です。 |
| 専門家派遣制度
(商工会議所・産業保健総合支援センター) |
・健康経営アドバイザーの派遣
・メンタルヘルス対策の相談 ・就業規則の改定アドバイス |
原則「無料」で専門家が来てくれます。ノウハウがない初期段階では、コンサルタントを雇う前にまずこの無料枠を使い倒しましょう。 |
これらの制度は、年度ごとに予算の上限が決まっていたり、申請期間が限られていたりすることがあります。
「知らなかった」で損をしないよう、管轄の労働局や商工会議所のホームページをこまめにチェックするか、私たちのような専門家に相談してください。
特に受動喫煙対策は、2025年の健康経営優良法人認定においても非常に重視される項目です。
助成金を活用して、喫煙者も非喫煙者も快適に過ごせる環境を整えることは、職場の心理的安全性を高める上でも非常に有効な投資と言えます。
参考リンク:(出典:厚生労働省『受動喫煙防止対策助成金』)
ユニークで面白い企業の取り組み事例
「健康経営」というと、どうしても「指導」「管理」「我慢」といった堅苦しいイメージがつきまといます。
しかし、成功している企業の共通点は、健康づくりを「イベント」や「エンターテインメント」に変えてしまっていることです。
「やらされる健康」は続きませんが、「楽しい健康」は自走します。
ここでは、他社との差別化にもなり、従業員のエンゲージメント(愛社精神)を高めるユニークな事例をご紹介します。
【アイデアが光る!ユニーク施策集】
- 「ベジタブル・ボーナス(野菜現物支給)」:残業をした社員への夜食として、カップラーメンではなく、地元の農家から仕入れた新鮮な野菜やフルーツを提供する制度です。「会社が自分の体を気遣ってくれている」というメッセージがダイレクトに伝わり、家族にも喜ばれるため、従業員満足度が非常に高い施策です。
- 「睡眠報酬制度(寝るだけでボーナス)」:スマホの睡眠計測アプリと連携し、質の高い睡眠(例えば6時間以上)をとった日数に応じてポイントが付与され、商品券などと交換できる仕組みです。「寝ていない自慢」が蔓延しがちな日本企業において、「寝ることは仕事の一部」という強烈なメッセージを発信できます。
- 「徒歩通勤手当(エコ通勤)」:会社から2km以内などの近隣に住み、徒歩や自転車で通勤する社員に対して、電車通勤定期代と同等、あるいはプラスアルファの手当を支給する制度です。満員電車のストレスから解放され、運動不足も解消できる「一石二鳥」の施策です。
- 「禁煙チャレンジャー応援制度」:禁煙を宣言した社員を「チャレンジャー」とし、成功したら本人に報奨金を出すだけでなく、応援した周囲のチームメンバーにも「サポート手当」を出す仕組みです。これにより、周囲が「吸わせない雰囲気」を自然と作るようになり、成功率が格段に上がります。
これらの事例に共通するのは、「ゲーミフィケーション(ゲーム要素)」を取り入れている点です。
「健康診断の結果が良かったら金一封」というのも分かりやすいですが、「チーム対抗ウォーキング大会」のように、競争や協力の要素を入れることで、普段話さない部署の人との会話が生まれます。
中小企業が大企業の真似をして豪華なジムを作る必要はありません。
「社長と歩こう!ランチウォーキング」のように、その会社の風土に合った、ちょっと笑えるような取り組みの方が、実は効果が高かったりするものです。
中小企業におすすめの健康施策とは
大企業と違って、専任のスタッフも予算も限られる中小企業。
しかし、中小企業には「小回りが利く」「経営者と従業員の距離が近い」という最大の武器があります。
この武器を活かすなら、私は迷わず「食環境」と「コミュニケーション」への介入をおすすめします。
なぜなら、「食べる」ことは全従業員が毎日必ず行う行為であり、ここを変えることが最も手っ取り早く、かつ効果を実感しやすいからです。
1. 0円でできる「自販機改革」
社内に自動販売機はありますか?もしあるなら、今すぐベンダー(管理会社)に電話してみてください。そして、こう伝えてください。
「ラインナップを変えたいです。甘い缶コーヒーや炭酸飲料を減らして、トクホのお茶や無糖炭酸水、水を一番目立つ位置に増やしてください」と。
これは基本的に0円で対応してくれます。人の行動は環境に左右されます。
目の前に砂糖たっぷりのジュースがあればそれを買いますが、お茶しか目に入らなければお茶を買います。
これを「ナッジ(行動変容を促す仕掛け)」と言いますが、コストをかけずに社員の糖分摂取量を劇的に減らすことができる、裏ワザ的施策です。
2. 「置き型社食」の導入
「オフィスグリコ」のようなお菓子ボックスも良いですが、最近は「オフィスおかん」や「OFFICE DE YASAI」のような、健康的なお惣菜やサラダを1品100円程度で購入できる「設置型社食サービス」が人気です。
企業側の負担は月額数万円程度かかりますが、社員食堂を作るコストに比べれば微々たるものです。
「ランチ難民」の解消にもなりますし、コンビニ弁当ばかり食べている独身社員の食生活を救う救世主になります。
3. 「健康情報」のシェア
特別なセミナーを開かなくても、情報の流通経路を作るだけで立派な施策です。
例えば、チャットツール(SlackやChatwork、LINE WORKSなど)に「健康雑談チャンネル」を作り、そこに「肩こりに効くストレッチ動画」のURLを貼ったり、「今月の旬の野菜」を紹介したりするだけです。
総務担当者が週に1回投稿するだけでも、従業員のヘルスリテラシー(健康への感度)は徐々に、しかし確実に上がっていきます。
2025年健康経営優良法人の認定要件
健康経営に取り組むのであれば、ぜひ目指していただきたいのが経済産業省による「健康経営優良法人」の認定です。
この認定ロゴマークを名刺やホームページに掲載することで、「従業員を大切にする会社」という強力なブランディングが可能になります。
2025年の認定(中小規模法人部門)に向けて、押さえておくべき最新のトレンドと要件のポイントを解説します。「ブライト500(上位500社)」を目指す企業様は特に要チェックです。
【2025年認定攻略の4大ポイント】
- ① 情報開示(見える化)の強化:これまで以上に「社外への発信」が求められています。自社のホームページで健康経営の取り組み内容や、具体的な目標・実績(健診受診率100%など)を公開しているかが評価されます。「やっているけど言っていない」は評価されません。
- ② 受動喫煙対策の完全実施:「屋内禁煙」などの受動喫煙対策は、選択項目ではなく事実上の「必須項目」と考えてください。ここは妥協が許されないエリアです。
- ③ フィードバックの活用(PDCA):健康経営度調査に回答するともらえる「フィードバックシート」を読み込み、自社の順位や偏差値を把握した上で、次年度の改善に活かしているかが問われます。
- ④ 専門職との連携:産業医や保健師などの専門職が、形式的に関わるだけでなく、実質的に施策に関与しているかが重視されます。また、40歳以上の健診データを協会けんぽ等へ提供することも必須要件の一つです。
認定スケジュールとしては、例年8月下旬頃から「健康経営度調査」の回答受付が始まり、10月中旬頃に締め切られます。
この調査票への回答がそのまま申請手続きになります。質問項目は多岐にわたりますが、ここまで解説してきた「宣言」「体制」「施策」が整っていれば、恐れることはありません。
調査票の内容は毎年少しずつアップデートされますので、経済産業省の特設サイトで最新の「調査票」をダウンロードし、早めに準備を始めることが合格への鍵です。
参考リンク:(出典:経済産業省『健康経営優良法人認定制度』)
経営層と従業員を巻き込む社内浸透策
いくら素晴らしい計画や制度を作っても、従業員がしらけてしまっていては意味がありません。健康経営の現場で最も多く聞かれる悩み、それが「温度差」です。「総務と社長だけが盛り上がっていて、現場は冷ややか」という状況をどう打破すればよいのでしょうか。
その答えは、「強制力を排除し、共感を生む」ことにあります。
「北風」ではなく「太陽」のアプローチ
イソップ童話ではありませんが、「健康になれ!」「タバコをやめろ!」と厳しく指導(北風)すればするほど、従業員は心を閉ざし、コートの襟を立ててしまいます。
逆に、「ここに行けば美味しい野菜が安く食べられるよ」「階段を使うとなぜかポイントが貯まってお得だよ」といったメリット(太陽)を提供することで、従業員は自らコートを脱ぎ始めます。
これを専門用語で「ナッジ理論」と呼びますが、要は「ついやりたくなる仕掛け」を作ることです。
トップランナーとしての社長の役割
そして何より効果的なのが、経営者自身が楽しむ姿を見せることです。
社長が率先して「最近、ウォーキングを始めたんだ」と笑顔で話し、ジャージ姿でイベントに参加する。
これだけで、社内の空気は一変します。「社長があんなに楽しそうなら、私たちもちょっと参加してみようかな」という心理的安全性が生まれるのです。
対話のチャネルを増やす
一方的なメール配信だけでなく、対話の場を設けることも重要です。
「最近、体の調子どう?」という何気ない会話から、「実は腰痛が辛くて…」という本音が引き出せれば、そこから「スタンディングデスクを導入しようか」という具体的な施策が生まれます。健康経営は、究極の社内コミュニケーション施策でもあるのです。
まとめ:健康経営は何から始めるのが正解か
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
最後に、本記事の要点を改めて整理します。「何から始める?」と迷ったときは、この原点に立ち返ってください。
【健康経営スタートアップの極意】
- まずは「宣言」から:0円・即日でできる最強の第一歩です。社内外に覚悟を示しましょう。
- 「データ」を見る:健康診断結果は会社の通信簿。ここにある課題から目を逸らさないでください。
- 「日常」を変える:高額なジムはいりません。ラジオ体操、階段利用、自販機のラインナップ変更など、身近なところから「健康」のタグ付けを行ってください。
- 「楽しむ」ことを忘れない:義務感ではなく、ゲーム感覚で。社長と担当者が楽しんでいる会社は必ず成功します。
健康経営は、一朝一夕に結果が出る特効薬ではありません。
しかし、従業員一人ひとりが心身ともに健康で、活き活きと働くことができる環境は、確実に企業の生産性を高め、イノベーションを生み出す土壌となります。
「うちの会社、最近なんだか雰囲気が明るくなったね」。
そう言われる未来を目指して、まずは今日、隣の席の同僚に「健康経営って知ってる?」と話しかけるところから始めてみてはいかがでしょうか。
その小さな一言が、御社の大きな変革の始まりになるはずです。
※本記事の情報は執筆時点(2025年版要件等)のものです。
助成金や認定制度の詳細な要件は、変更される可能性がありますので、必ず各省庁や自治体の公式サイトで最新情報をご確認ください。
もう、一人で全てを抱え込む必要はありません
ここまでお読みいただきありがとうございます。
「やるべきことは分かったけれど、自分一人で手続きも健康管理もこなすのは大変そうだ…」と不安を感じていませんか?
実は、成功しているひとり社長ほど、苦手なことはプロに「丸投げ」して、自分は売上を作ることに専念しています。
当アカデミー代表の小野馨は、「行政書士(法務のプロ)」でありながら、第一人者に師事した「ハートマス認定トレーナー(メンタルのプロ)」でもあります。
「法務で会社を守り、科学で心を整える」
この両輪を回せる唯一無二の専門家チームが、あなたの起業と経営をバックアップします。
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