
経営者の方とお話ししていると、健康経営についてこんな本音を漏らされることがよくあります。
「小野さん、社員の健康が大事なのはわかるよ。
でもね、売上に直結しないことにコストや時間をかける余裕はウチにはないんだよ」
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。中小企業の経営において、1円でも利益につながらない出費は「悪」です。
キャッシュフローが命綱である以上、リターンの見えない施策にお金を使うわけにはいきませんよね。
しかし、もし健康経営が単なる「コスト(経費)」ではなく、将来的にキャッシュフローを改善し、数百万単位の利益を生み出す「投資」だとしたらどうでしょうか?
実は今、国や金融機関は「健康経営に取り組む企業」を露骨に優遇し始めています。
この記事では、きれいごとは抜きにして、経営者が一番知りたい「健康経営の実利(金銭的メリット)」について、行政書士の視点で徹底解説します。
- 銀行融資の金利優遇や保証料減免などの金融メリット
- 返済不要の「助成金」を獲得しやすくなる仕組み
- 採用コストの削減と「見えない人件費」の圧縮効果
- これらのメリットを最大化するための「定款」の使い道
【融資・資金】銀行と国が用意している「ご褒美」の実態
まず、経営にとって最も即効性があり、かつインパクトの大きい「お金」の話から始めましょう。
健康経営優良法人の認定を取得することは、金融機関に対して「この会社は倒産リスクが低い優良企業です」という、最強の証明書を提示するのと同じ効果を持ちます。
【融資】金利優遇と信用保証料の減免措置
「健康経営にお金をかけると、経費が増えて銀行の評価が下がる」と思っていませんか? それは完全に逆です。
むしろ今は、健康経営をやっていない会社の方が、将来的なリスクが高いと判断されかねない時代なんです。
現在、地方銀行や信用金庫、メガバンクを含めた多くの金融機関が、「健康経営格付融資」や「健康経営サポートローン」といった独自の商品を展開しています。
これは、健康経営優良法人の認定企業や、協会けんぽに「健康宣言」をしている企業に対し、通常よりも優遇された金利でお金を貸すというものです。
なぜシビアな銀行がそんな「ご褒美」をくれるのでしょうか? もちろんボランティアではありません。
銀行は膨大なデータ分析の結果、ある真実に気づいているからです。
「従業員の健康を組織的に管理できている会社は、離職率が低く、生産性が高く、不祥事も少ない。結果として、貸し倒れする確率が極めて低い」という事実を。
つまり、銀行にとって健康経営に取り組む企業は、喉から手が出るほど貸したい「上客」なのです。
具体的な金融メリットの例
- プロパー融資の金利優遇:金融機関のランク付けにおいて加点評価され、基準金利から0.1%〜数%の引き下げが行われるケースがあります。融資額が大きければ大きいほど、この0.1%の重みは利益を左右します。
- 信用保証料の割引:各都道府県の信用保証協会が、認定企業の保証料率を割り引く制度を設けています。例えば保証料が0.1%下がるだけでも、数千万、数億の融資となれば、数十万円単位のキャッシュアウトを防げます。
- 私募債の発行手数料優遇:銀行引き受けの「健康経営応援私募債」などを発行する際、手数料の一部免除や、発行手数料の一部を健康関連団体へ寄付するなどの特典がつきます。
認定取得にかかるコスト(申請手数料は無料、活動費も工夫次第で0円)と、これらの金利削減効果(=利益)を天秤にかけてみてください。
明らかに「黒字」になるケースが多いはずです。これはもはや、やらない方が損をするレベルの話だと思いませんか?
(出典:経済産業省『健康経営の推進について(インセンティブ措置)』)
【助成金】人材確保等支援助成金などの加点要件
融資はあくまで「返すお金」ですが、国には「返さなくていいお金」、つまり助成金も用意されています。
健康経営に取り組むことで、これらの助成金の受給ハードルが下がったり、審査で有利になったりすることをご存知でしょうか。
代表的なのが、厚生労働省が管轄する「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」です。
この助成金は、離職率を下げるための「評価処遇制度」や「研修制度」、そして「健康づくり制度」を導入し、目標を達成した場合に支給されます。
具体的には、以下のような流れで「健康経営」と「助成金」がリンクします。
助成金活用のフロー
- 健康経営の一環として、外部のメンタルヘルス研修や、法定外の健康診断(人間ドック補助、歯科検診など)を新たに導入する。
- これを「就業規則」や「労働協約」に明記し、管轄の労働局に計画を提出する。
- 計画通りに実施し、その結果、離職率が目標値まで低下すれば、57万円(生産性要件を満たせば72万円)が支給される。
要するに、健康経営のために使ったコストの一部、あるいはそれ以上の金額を、国が後から補填してくれるイメージです。
また、自治体によっては独自の「健康経営推進補助金」を出しているところもあります。例えば、受動喫煙対策のための工事費補助や、健康機器の購入補助などです。
これらの情報は、自分から取りに行かないと誰も教えてくれません。「健康経営はお金がかかる」と嘆く前に、使える制度がないか探してみる。
これを知っている経営者だけが、賢く資金を回せるのです。
(出典:厚生労働省『事業主の方のための雇用関係助成金』)
【入札】公共事業の入札加点と公共調達の優遇
もし御社が建設業や設備業、物品販売、ビルメンテナンス業などで、国や自治体の公共事業に関わっている(あるいは今後関わりたい)と考えているなら、健康経営はもはや「必須科目」と言っても過言ではありません。
現在、国土交通省をはじめ多くの自治体が、公共工事の入札参加資格審査(いわゆる経営事項審査、経審)において、「健康経営優良法人の認定企業」や「健康企業宣言を行っている企業」を加点評価する仕組みを導入しています。
入札の世界では、技術力や価格競争力が拮抗している場合、わずか1点、2点の差で億単位の案件が取れるかどうかが決まることがありますよね。
競合他社に負けないために
「技術力には自信があるのに、総合評価方式でなぜか競合他社に負けた」
あとで蓋を開けてみたら、その原因が「健康経営優良法人の認定マークを持っているかどうか」の加点差だった、という事例は珍しくありません。
公共事業の入札において、健康経営はもはや「他社との差別化要因」ではなく、「同じ土俵に立つための参加チケット」になりつつあります。
この流れは今後さらに加速し、民間取引においても「取引条件」として健康経営の有無が問われる時代が来るでしょう。
(出典:国土交通省『経営事項審査の主な改正事項』)
【人・組織】見えないコストを削減する「守り」のメリット
ここまでは分かりやすい「現金(キャッシュ)」の話でしたが、実は経営にもっと深刻かつ長期的なダメージを与える「見えないコスト」の削減効果についても触れておく必要があります。それは、経営者の悩みのタネである「人」に関するコストです。
【採用】求人費用の削減と採用ミスマッチの防止
「高いお金を払って求人広告を出しても応募が来ない」「人材紹介会社に年収の35%もの紹介料を払って採用したのに、3ヶ月で辞めてしまった」
こんな経験はありませんか? 経営者の悩みのトップは常に「人」です。実は、健康経営はこの採用コストを劇的に下げる特効薬になり得ます。
今の求職者、特にこれから会社を支える20代〜30代の若手層や、引く手あまたの優秀なエンジニア層は、給与額と同じくらい、あるいはそれ以上に「労働環境(ブラック企業ではないか)」をシビアに見ています。彼らが企業選びの際の「フィルター」にしているのが、「健康経営優良法人」のロゴマークです。
経済産業省の調査によると、就活生の親の約7割が「子供には健康経営に取り組む企業に就職してほしい」と回答しています。認定マークがあるだけで、求人票の信頼度が跳ね上がり、閲覧数が増え、応募者の質が高まります。結果として、求人広告費をかけなくても人が集まり、高額な紹介手数料を削減できるのです。もし1人の採用コストが100万円かかるとすれば、離職を1人防ぐだけで、売上ではなく「利益」で100万円出たのと同じ効果があるわけです。
(出典:経済産業省『健康経営の概要』)
【生産性】プレゼンティーズム(不調による損失)の解消
「欠勤はしていないけれど、なんだか体調が悪くて仕事がはかどらない」「花粉症や腰痛で集中できず、ミスを連発している」
この状態を専門用語で「プレゼンティーズム(Presenteeism)」と言います。対して、欠勤や休職の状態は「アブセンティーズム」と言います。
実は、企業の健康関連コストの中で、医療費や欠勤(アブセンティーズム)による損失よりも、このプレゼンティーズムによる「見えない生産性低下」の損失の方が、圧倒的に大きいことが様々な研究で分かっています。一説には、健康関連総コストの約6割〜7割を占めるとも言われています。
メンタル不調や慢性的な睡眠不足、腰痛を抱えたまま社員を働かせても、ミスが増え、そのリカバリーで残業代がかさみ、会社の利益を食いつぶすだけです。ここで重要になるのが、私が推奨している「ハートマス(HeartMath)」のような科学的アプローチです。
科学で生産性を買うという発想
ハートマスを導入し、ウェアラブルセンサーで社員の自律神経の状態を可視化・調整することで、集中力や判断力(コヒーレンス)を高めることができます。これは単なる福利厚生ではなく、「生産性向上のための設備投資」です。
「気合で頑張れ」という精神論ではなく、科学的なメソッドで社員のコンディションを整える。これにより、同じ給与(人件費)でより高いアウトプットを引き出すことが可能になります。
【戦略】そのメリットを確実に引き出すための「定款」活用術
ここまで、融資、助成金、採用といった「実利」をお伝えしましたが、これらを絵に描いた餅にせず、確実に「自社のもの」にするために、絶対にやっておくべきことがあります。
それは、「会社の憲法である定款(ていかん)を変えること」です。
【本気度】銀行や国は「事業目的」を見ている
銀行の融資担当者や、役所の審査官、あるいは大企業の取引担当者は、会社のどこを見て「本気度」や「信用」を判断すると思いますか? 社長の熱弁でしょうか? きれいな会社案内パンフレットでしょうか?
いいえ、違います。彼らが最も重視するのは、法務局で誰でも取得できる「履歴事項全部証明書(登記簿)」、つまり定款の内容です。
定款の「事業目的」の欄に、「従業員の健康保持増進に関する取り組み」や「健康経営の推進」といった文言が入っているかどうか。これは法的に非常に大きな意味を持ちます。「口先だけでなく、株主総会の特別決議という重い手続きを経て、会社の根本規則に刻み込んでいる」という事実は、金融機関の格付審査や、助成金の整合性チェックにおいて、強力な加点材料になります。
逆に言えば、いくら健康経営をアピールしても、定款の目的が何十年も前のままで実態と合っていなければ、「この会社はガバナンスが効いていない」と判断されるリスクさえあるのです。
【電子定款】印紙代0円で「信用」を買う裏ワザ
「定款変更が大事なのは分かったけど、費用がかかるのでは?」と心配されるかもしれません。確かに、通常の手続きでは費用が発生します。
特に、従来の「紙の定款」を新しく作り直す(原子定款を作成する)場合、印紙税として4万円がかかります。コスト削減のために健康経営をやるのに、ここで4万円払うのは馬鹿らしいですよね。
しかし、ここでプロの知識を使ってください。私が専門としている「電子定款」であれば、この印紙代4万円は0円(完全無料)になります。
電子定款は、紙ではなくPDFデータとして作成し、電子署名を付与するものです。行政書士への報酬を含めても、数万円程度の投資で済みます。たった数万円で、会社の法的基盤を整え、数百万、数千万単位の融資や助成金を引き出しやすい「信用体質」に変えられるとしたら、これほど効率の良い投資(ROIの高い施策)は他にありません。これこそが、行政書士が提案する「攻めの健康経営」です。
【結論】健康経営は「コスト」ではなく最強の「投資」である
結論を申し上げます。健康経営は、社員のためだけのボランティア活動ではありません。会社のお金を守り、増やし、組織を強くするための、極めて合理的かつ戦略的な「経済活動」です。
- 金融メリット:低金利融資や保証料減免を活用し、キャッシュフローを改善する。
- 採用メリット:求人費を下げ、ミスマッチのない優秀な人材を引き寄せる。
- 法的メリット:定款変更で対外的な信用力を底上げし、ガバナンスを強化する。
この3つを連動させることが、経営者視点での「健康経営の正解」です。
もし、あなたが「ただ認定のロゴマークを取るだけでなく、実利につなげたい」「会社を次のステージに進めたい」とお考えなら、まずは会社の土台である「定款」の見直しから始めてみませんか?
当事務所では、健康経営優良法人の認定を見据えた「戦略的な電子定款作成」をワンストップでサポートしています。また、生産性を高めるための「ハートマス導入支援」も行っております。
「融資に強い定款にしたい」「助成金が取れる規定に整えたい」
そのようなご相談を、いつでもお待ちしております。健康経営を武器に、御社の経営をより盤石なものにしていきましょう。