健康経営

【実践】健康経営のやり方と認定取得までのPDCAの回し方

小野馨
こんにちは。行政書士の小野馨です。

「社長から突然『ウチも健康経営をやるぞ!あとは頼んだ』と丸投げされてしまったけれど、具体的にどのような手順で進めればいいのか見当もつかない」

「認定申請の書類(フィードバックシート)を見ただけで、項目の多さと専門用語にめまいがした」

そんな悩みを抱えて、途方に暮れている実務担当者の方は非常に多いです。

お気持ち、痛いほどよく分かります。健康経営は、単に年に一度の健康診断を受けさせたり、朝礼でラジオ体操をしたりするだけの「点」の活動ではありません。

それらを組織的な活動として有機的につなぎ合わせ、一年を通じて継続的に改善していく「線」のマネジメント、つまりPDCAサイクルを回すことが求められるからです。

この記事では、初めて担当に任命された方でも迷わずに認定取得までたどり着けるよう、具体的な「やり方」をフローチャート形式で、実務の裏側まで踏み込んで解説します。

さらに、単なる事務処理で終わらせず、会社を「法務(定款・規定)」と「メンタル(科学的ケア)」の両面から強くするための、プロの行政書士ならではのテクニックも惜しみなく公開します。

この記事のポイント

  • 認定取得までの具体的なステップと無理のないスケジュールの立て方
  • 審査で「実態がない」と判断されないための鉄壁のエビデンス管理術
  • 行政書士が教える「定款」と「就業規則」を使った最強の体制づくり
  • 認定をゴールにせず、融資や企業価値向上につなげる出口戦略

【体制】推進担当者の選定と社内体制の構築手順

健康経営を始めるにあたって、最初にすべきことは「誰がやるか」を決めることです。

「総務の〇〇君、通常業務のついでにやっておいて」という片手間の丸投げでは、99%失敗しますし、担当者が疲弊して終わります。

なぜなら、健康経営は全社的な取り組みであり、予算や規定変更などの「経営判断」を伴う場面が多々あるからです。

まずは、以下の3つの役割を明確にし、組織図を作ることから始めましょう。

役割名 適任者 具体的な任務
1. 健康経営最高責任者(CHO) 社長・役員 「会社として本気でやる」という旗振り役。予算の承認や、最終的な意思決定を行います。ここが本気にならないと現場は動きません。
2. 健康経営推進担当者 総務・人事課長 実務のリーダーです。年間計画の策定、社内への周知、イベントの運営、申請書類の作成など、最も汗をかくポジションです。
3. 健康づくり担当者 各部署のリーダー 現場のキーマンです。「ラジオ体操やりますよ!」と声をかけたり、現場の意見を吸い上げたりする役割を担います。

小規模な会社であれば、社長と担当者の2名体制でも構いません。重要なのは、「誰が責任を持って進めるのか」を社内通達やキックオフミーティングで明確にし、全社員に周知することです。

実は、この「体制図(誰が担当か)」や「経営層が関与しているか」自体が、後の認定審査(健康経営度調査)において重要な評価項目となります。「担当者が勝手にやっている」ではなく「組織として動いている」形を作ることが、最初のステップです。

【宣言】協会けんぽへのエントリーと課題の洗い出し

体制ができたら、次は対外的な「宣言」を行います。これが公的な健康経営のスタートラインです。

具体的には、自社が加入している保険者(多くの中小企業の場合は「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の都道府県支部)に対し、「健康企業宣言(または健康事業所宣言)」のエントリーシートを提出します。

手続きは簡単です

エントリーシートはA4用紙1枚程度で、FAXや郵送で簡単に提出できます。費用もかかりません。これを出さないと、国の認定制度(健康経営優良法人)への申請資格が得られないため、必ず最初に行ってください。

詳しい手順については、こちらの記事で解説していますので、まだの方は先に済ませておいてください。

(※関連記事:健康経営は何から始める?協会けんぽへの「健康起業宣言」のエントリー方法

宣言を提出すると、数ヶ月後に保険者から「健康課題のチェックシート」や、自社の健診結果をビッグデータと比較した「健康診断結果の分析データ(事業所カルテ)」が送られてくることがあります(自治体により異なります)。

これらを使って、「ウチの会社は同業他社に比べて運動不足の社員が多いな」「40代の喫煙率が異常に高いな」といった自社の健康課題(弱点)を洗い出しましょう。敵(課題)を知らなければ、効果的な戦い方(施策)は決められません。「なんとなく良さそうだからウォーキングをする」のではなく、「BMIが高い社員が多いからウォーキングをする」という論理的な接続が、後の審査で高く評価されます。

【計画】年間計画の作成と数値目標の設定方法

課題が見えたら、いきなり活動を始めるのではなく、まずは「計画(Plan)」を立てます。健康経営優良法人の認定審査では、「計画に基づいた実施」が求められるからです。

「いつ」「誰が」「何をして」「どのような状態を目指すのか」を年間計画表に落とし込みます。ここで実務担当者が最も悩み、そして審査員が最も注目するのが「数値目標」の設定です。

その目標、評価できますか?

  • × 悪い例:「社員の運動不足を解消する」「健康意識を高める」(曖昧すぎて、年末に達成できたかどうか客観的に判断できません)
  • ○ 良い例:「週1回以上運動する社員の割合を、現在の20%から40%に引き上げる」「ストレスチェックの受検率を90%以上にする」(具体的で測定可能です)

目標は高すぎなくて大丈夫です。現実的に達成可能な数値を設定し、それを社内掲示板やメールで全社員に公表することが大切です。「会社は今年、ここまでやるぞ」と宣言することで、社員の意識も変わります。このプロセスを経ることで、活動が単なる担当者の「思いつき」ではなく、立派な「経営戦略」へと昇華するのです。

【施策】従業員の心身をケアする具体的取り組み

計画ができたら、いよいよ「実行(Do)」のフェーズです。ここでは、計画に基づいて具体的な健康施策を行います。

「具体的に何をすればいいの?」「予算がないとできないのでは?」と迷う場合は、以下の4つの柱を意識してメニューを組んでみてください。

カテゴリー 具体的な活動例(低コスト中心)
1. 健診・検診 定期健診100%受診の徹底、要所見者への再検査勧奨(受診勧奨)、インフルエンザ予防接種の費用補助や就業時間内接種の許可
2. 運動 始業時のラジオ体操、階段利用推進ポスターの掲示、徒歩・自転車通勤の推奨、ウォーキングアプリの活用
3. 食事 自販機ラインナップの見直し(トクホ・無糖飲料の増加)、食事バランスガイドの掲示、特定の保健用食品の導入
4. メンタル ストレスチェックの実施(50人未満でも)、相談窓口の設置と周知、ハートマス(呼吸法)の実践

特に中小企業の場合は、最初から高額なジム契約などをする必要はありません。コストをかけずにできることからスモールスタートするのが鉄則です。具体的な0円アクションについては、前回の記事で詳しく紹介していますので、ネタに困ったらぜひ参考にしてください。

(※関連記事:健康経営は何をする?0円で即実践できる具体的アクション10選

【申請】認定基準クリアに向けた実績報告と評価

活動を行ったら、必ず「評価(Check)」と「改善(Act)」を行います。そして、その集大成として認定申請を行います。

健康経営優良法人(中小規模法人部門)の申請スケジュールは、概ね以下の通りです(年度によって多少前後しますので、必ず最新情報を確認してください)。

  • 8月〜10月頃:申請受付期間。経済産業省の専用ポータルサイトから「申請書(健康経営度調査回答)」を入力・送信します。
  • 11月〜12月頃:審査期間。不備があれば保険者や事務局から問い合わせが来ます。
  • 翌年3月頃:認定法人の発表(「健康経営優良法人20xx」のロゴマークが使用可能になります)。

申請書では、「どのような課題に対し、どのような目標を立て、何を実施し、どのような結果が出たか」を詳細に報告する必要があります。ここで最も重要になるのが、次章で解説する「エビデンス(証拠)」の管理です。ここが杜撰だと、どんなに素晴らしい活動をしていても不認定になる可能性があります。

【秘訣】失敗しない健康経営のやり方と成功の鍵

ここまでは一般的なフロー解説でしたが、ここからは行政書士として多くの企業のサポートをしてきた経験から、「失敗して認定を逃す会社」と「成功して経営メリットを享受する会社」の決定的な違いについてお話しします。認定を取るだけでなく、会社を本質的に強くするための「秘訣」です。

【証拠】実施記録や会議議事録の保存テクニック

認定審査で落ちる最大の原因は、「活動はやっているけれど、客観的な証拠がない」ことです。申請書に「実施しました」とチェックを入れるのは簡単ですが、もし後日、事務局から監査が入った時に「いつ実施しましたか?その時の資料を見せてください」と言われて何も出せなければ、最悪の場合、認定取り消しもあり得ます。

実務担当者は、以下の書類を「健康経営ファイル(紙でもデジタルでも可)」として一元管理する癖をつけてください。

保存すべき必須エビデンス一覧

  • 会議議事録:健康経営の方針や計画について話し合った「衛生委員会」や「経営会議」の議事録。開催日時と出席者が分かるものがベストです。
  • 周知文書:メール、チャット、社内報、掲示板のポスターなど、社員に「告知した」という記録。スクリーンショットや現物の写真を保存します。
  • 実施記録:ラジオ体操の実施カレンダー、セミナーの参加者名簿、再検査勧奨を行った際の管理簿(誰にいつ声をかけたか)。
  • 写真:活動風景、設置した設備、掲示したポスターの写真(日付入りアプリで撮るのがおすすめです)。

「担当者の記憶」ではなく「客観的な記録」で管理する。これが法務の基本であり、健康経営を成功させるための鉄則です。

【法務】定款の事業目的に記載し企業姿勢を確立

ここが、他のコンサルタントがあまり語らない、しかし行政書士として私が最も重要視しているポイントです。

健康経営を本気で進めるなら、会社の憲法である「定款(ていかん)」を見直してください。具体的には、株主総会の決議を経て、事業目的に「健康経営の推進」や「従業員の健康保持増進に関する取り組み」といった条文を追加し、登記を行います。

なぜこれが成功の鍵なのか? それは、対外的な信用度が劇的に変わるからです。

認定審査の評価項目には「経営理念・方針の明文化」というものがありますが、社内掲示板にスローガンを貼るのと、法務局に登記され誰でも閲覧できる定款に刻むのとでは、その重みが全く違います。金融機関や新規の取引先は、与信調査の際に必ず登記簿(定款)を見ます。「この会社は、定款に書くほど本気で人を大切にしているのか」という評価は、資金調達や契約交渉において、目に見えない強力な武器になります。

(出典:法務省『商業・法人登記』

【規定】就業規則に健康管理のルールを整備する

定款が対外的な宣言なら、社内のルールブックである「就業規則」の整備も欠かせません。

例えば、「忙しいから健診を受けたくない」という社員への対応に困ったことはありませんか? 就業規則に「従業員は会社が行う健康診断を受診しなければならない」「正当な理由なく拒否した場合は懲戒の対象とする」といった服務規律を明記しておくことで、会社は毅然とした対応(業務命令)ができるようになります。

また、後述する助成金の申請においても、「就業規則に関連する規定(健診の実施や費用の負担など)があること」が必須要件となるケースがほとんどです。健康経営を「なあなあのサークル活動」にしないために、定款と就業規則という「法的基盤」を整えることが、持続可能な運用のコツです。

【科学】ハートマス等の質が高いメンタル対策導入

法的な仕組みができたら、次は「中身」の質を高めます。特に他社と差がつくのがメンタルヘルス対策です。

従来のストレスチェックや相談窓口は「マイナスをゼロに戻す(不調者の発見)」ための守りの施策でした。しかし、これからの健康経営に求められるのは、社員のパフォーマンスを上げ、「ゼロをプラスにする(活性化)」攻めの施策です。

そこで私が推奨しているのが、米国発の「ハートマス(HeartMath)」です。これは、イヤーセンサーで「心拍変動(HRV)」という生体データを測定しながら、科学的に検証された呼吸法でメンタルを整えるトレーニングです。

「なんとなくリラックスした気がする」という主観ではなく、「コヒーレンス値が上がった」という数値で効果が見えるため、論理的な思考を好む経営者やエンジニア、若手社員にも受け入れられやすいのが特徴です。こうした「科学的根拠のある独自施策」を持つことは、認定審査での加点だけでなく、採用ブランディングにおける強力な差別化要素になります。

【融資】評価を資金調達につなげる出口戦略

最後に、健康経営を「コスト」で終わらせないための出口戦略についてお話しします。

健康経営優良法人の認定を取得すると、以下のような実利的なメリットが得られる可能性があります。

認定取得による金融メリットの例

  • 健康経営格付融資:多くの地方銀行やメガバンクが、認定企業に対して金利を優遇する商品を用意しています。
  • 保証料の減免:信用保証協会が、認定企業の信用保証料率を引き下げる制度を設けている場合があります。
  • 自治体入札の加点:公共事業の入札参加資格審査において、健康経営優良法人を加点評価する自治体が急増しています。
  • 助成金の加点:「人材確保等支援助成金」などの審査において有利になる場合があります。

つまり、正しく運用すれば、かけたコスト以上の「キャッシュフロー改善効果」が見込めるのです。ここまで見据えてPDCAを回すのが、経営戦略としての健康経営のやり方です。

【総括】健康経営のやり方を極めて会社を強くする

健康経営のやり方は、決して難しいものではありません。しかし、漫然とやるのと、戦略的にやるのとでは、得られる成果に天と地ほどの差が出ます。

  1. 体制を作り、公に宣言する。
  2. PDCAを回し、証拠(エビデンス)を徹底して残す。
  3. 定款・就業規則で盤石な基盤を作り、科学的メンタルケア(ハートマス)で質を高める。
  4. 最終的に、融資や採用といった経営成果につなげる。

このサイクルを回すためには、単なる事務作業だけでなく、法務や制度設計の専門知識が不可欠です。

「自社の就業規則や定款が、健康経営に対応できているか法的にチェックしてほしい」

「ハートマスのような先進的な取り組みを導入して、他社と圧倒的な差をつけたい」

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