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ウェルビーイング経営とは?導入メリットと実践手法を徹底解説

ウェルビーイング経営

小野馨
こんにちは

ハートマス健康経営アカデミー代表の行政書士、小野馨です。

今回は、「ウェルビーイング経営とは何か?」についてお話します。

その導入メリットや実践手法を徹底解説しますね。

最近、ビジネス誌やニュースで「ウェルビーイング経営」という言葉を目にする機会が急激に増えましたよね。

経営者の方や人事担当の方とお話ししていても、

「言葉は知っているけれど、具体的に何をすればいいのかイメージが湧かない」

「健康経営とは何が違うの?」といった声を毎日のように耳にします。

正直なところ、新しい経営用語が出てくるたびに「また新しい流行りものか……」と少し身構えてしまう気持ち、よく分かります。

何を隠そう、私自身も最初はそう感じていました。

しかし、多くの企業の内部に関わり、組織が変わっていく様を目の当たりにする中で、これは単なるブームではなく、これからの日本企業が生き残るための「生命線」であると確信するに至りました。

自社でも取り入れたいけれど、具体的な事例や本、論文などの情報が多すぎて、何から手をつければいいのか迷っていませんか。

明日からの取り組みや指標、測り方はどうすればいいのか、担当者として資格やセミナーは必要なのか、悩みは尽きないものですよね。

この記事では、そんなあなたの疑問をひとつひとつ丁寧に、そして実務家の視点で徹底的に解消していきます。

教科書的な理論だけでなく、現場で使える「生きた知恵」を持ち帰ってくださいね。

  • ウェルビーイング経営と健康経営、人的資本経営の決定的な違いがスッキリ理解できる
  • PERMA理論に基づいた具体的な施策や、明日からできる導入ステップがわかる
  • 他社の成功事例から、自社の規模や風土に合った取り組みのヒントが得られる
  • 企業価値を高め、投資家や求職者に選ばれるための測定指標やサーベイ活用法がわかる

ウェルビーイング経営が注目される背景と基礎

まずは、なぜ今これほどまでに「ウェルビーイング経営」が叫ばれているのか、その背景と基礎知識についてしっかり押さえておきましょう。

ここを理解せずに施策だけを真似ても、残念ながら「仏作って魂入れず」になりがちです。逆に言えば、ここさえ腹落ちすれば、自社独自のアイデアが自然と湧いてくるようになりますよ。

人的資本経営や健康経営との違い

「健康経営」や「人的資本経営」といった言葉と混同しやすいのですが、それぞれの位置づけを建築物に例えて整理すると、非常にスッキリ理解できます。

それぞれの定義と包含関係

まず、従来からある「健康経営」は、主に身体的・精神的な健康管理(健康診断の受診率向上やストレスチェックなど)にフォーカスし、マイナス面をゼロに戻す「リスク管理」の側面が強いアプローチでした。もちろん、これは建物の「柱」として絶対に欠かせない要素です。

一方、最近話題の「人的資本経営」は、人材をコストではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値向上を目指す、いわば建物の「完成形(屋根や外観)」を目指す戦略です。

では、「ウェルビーイング経営」はどこに位置するのか?

それは、すべての土台となる「地盤(基礎)」です。従業員が心身ともに満たされ、社会的なつながりを感じ、「ここで働くことが幸せだ」と感じる状態があって初めて、健康施策も機能しますし、人的資本としての価値も最大化されるのです。

ウェルビーイング経営は、人的資本経営を実現するための最も基本的かつ包括的なアプローチと言えるでしょう。

この関係性を理解せずに、いきなり高度なスキル教育(人的資本投資)を行っても、土台がグラグラでは効果は薄いですよね。

ここがポイント

健康経営が「病気を防ぐ(マイナス是正)」活動だとすれば、ウェルビーイング経営は「活力を生み出し、個人の可能性を広げる(プラス創出)」活動だとイメージすると分かりやすいですよ。

経済産業省も、健康経営の推進において、従業員の活力向上や生産性向上を重視する方向性を示しており、実質的にウェルビーイングの概念を取り込み始めています。

(出典:経済産業省『健康経営の推進について』)

SDGsやESG投資における重要性

「社員の幸せなんて、個人の問題でしょ?」という考え方は、残念ながら今のビジネス界では通用しなくなってきています。その大きな要因が、投資家や社会からの視点の変化です。

投資家が見ている「S(社会)」の指標

現在は、企業の財務情報(売上や利益)だけでなく、非財務情報、特にESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが厳しく評価される時代です。その中でも「S(Social:社会)」の領域において、従業員のウェルビーイングは中心的なテーマとなっています。

機関投資家は、「従業員を使い捨てにする企業は、長期的には成長しない」「コンプライアンス違反や大量離職のリスクが高い」と判断し、投資対象から外す動きを加速させています。逆に言えば、従業員の幸福度が高い企業は、持続可能性(サステナビリティ)が高い優良企業として評価され、資金調達もしやすくなるのです。

SDGsとの関連性

また、SDGs(持続可能な開発目標)においても、目標3「すべての人に健康と福祉を」や、目標8「働きがいも経済成長も」に直結します。ウェルビーイング経営に取り組むことは、国際的な社会課題の解決に貢献しているという、強力な企業ブランディングにもつながるのです。

導入による生産性向上などの効果

「社員を幸せにする」というと、どうしても福利厚生費のような「コスト」として捉えられがちですが、それは大きな誤解です。これは明確なリターンが見込める「投資」なんです。

科学的に証明された「幸福」と「成果」の関係

ポジティブ心理学の研究では、「成功したから幸せになる」のではなく、「幸せ(ウェルビーイングな状態)だから成功する」という順序が正しいことが示唆されています。

よく引用される研究データ(米イリノイ大学のエド・ディーナー名誉教授らの研究等)によると、幸福度の高い社員は、そうでない社員に比べて以下のようなパフォーマンスの違いがあるとされています。

項目 効果の目安
創造性(イノベーション) 約3倍高い
生産性 約1.3倍高い
売上目標達成率 高い傾向にある

私自身の経験を振り返っても、嫌々仕事をしている時よりも、仲間と信頼関係があり、心身が満たされている時の方が、圧倒的に良いアイデアが浮かびますし、トラブルへの対応も柔軟にできますよね。脳科学的にも、ポジティブな感情は視野を広げ、思考の柔軟性を高めることが分かっています。

豆知識

逆に、ウェルビーイングが低い状態(心身の不調を抱えながら働いている状態)は「プレゼンティーイズム」と呼ばれ、見えない労働損失を生みます。この損失額は医療費の数倍に達するとも言われており、ここを改善するだけでも経営的なインパクトは非常に大きいのです。

従業員エンゲージメントとの深い関係

ウェルビーイング経営の核心的価値は、従業員が「やりがい」や「熱意」を持って働ける状態、つまりワーク・エンゲイジメントを高めることにあります。

「満足度」と「エンゲージメント」の違い

ここで注意したいのが、「従業員満足度」と「エンゲージメント」は似て非なるものだということです。 「満足度」は、「給料が良い」「休みが多い」といった、会社から与えられる条件に対する評価になりがちです。極端な話、仕事は適当でも待遇が良ければ満足度は上がります。

一方、「エンゲージメント」は、「会社の方針に共感し、自発的に貢献したいと思う意欲」や、仕事そのものに対する熱意を指します。ウェルビーイング経営が目指すのは、単に楽な環境を提供することではなく、このエンゲージメントを高めることです。

人材獲得競争(War for Talent)への切り札

少子高齢化で労働人口が減少する日本において、優秀な人材の確保は死活問題です。「給料は高いけど、精神的にすり減る会社」と、「給料は標準的だけど、自分が大切にされ、成長実感を持てる会社」。今の若手世代、特にZ世代がどちらを選ぶかは明白ですよね。

厚生労働省の労働経済白書でも、働きがいや働きやすさが労働生産性や定着率に正の影響を与えることが繰り返し報告されています。

(出典:厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析』)

幸福度を高めるPERMA理論の要素

「幸福度を上げろと言われても、何をどうすればいいのか分からない」という担当者の方におすすめなのが、ポジティブ心理学の創始者セリグマン博士が提唱したPERMA(パーマ)理論です。ウェルビーイングは、以下の5つの要素が満たされた時に向上すると言われています。施策を考える際は、この5つのどれにアプローチしているかを意識すると整理しやすくなります。

PERMAの5つの柱

要素 意味 職場で意識すべきこと
P (Positive Emotion) 前向きな感情 楽しさ、興味、感謝、安らぎを感じる瞬間があるか。ユーモアのある会話や、「ありがとう」が飛び交う風土作り。
E (Engagement) 没頭 時間を忘れて夢中になれる業務があるか。個人の強みやスキルが生かされる「フロー状態」を作れる配置。
R (Relationship) 関係性 他者との良好なつながりがあるか。困ったときに助け合える仲間や、心理的安全性の確保。
M (Meaning) 意義 人生や仕事の目的・意味を感じられるか。「自分の仕事が誰の役に立っているか」を実感できる仕組み。
A (Achievement) 達成 何かを成し遂げる感覚があるか。目標達成の喜びや、プロセスに対する適切な承認とフィードバック。

これらをバランスよく高めることが大切ですが、全てを一度にやる必要はありません。自社は「R(関係性)」が希薄だから、まずはコミュニケーション施策から始めよう、といった具合に、診断のフレームワークとして活用してください。

基礎を学ぶのにおすすめの本や論文

ウェルビーイング経営をより深く、体系的に学びたい方のために、情報の集め方について少しアドバイスさせてください。

理論と実践の両輪で学ぶ

まずは、理論的な裏付け(エビデンス)を知るために、ポジティブ心理学や幸福学に関する書籍を一冊読んでみることをお勧めします。例えば、ショーン・エイカー氏の『幸福優位7つの法則』などは、ビジネスへの応用が分かりやすく書かれており、入門書として最適です。

また、日本の公的機関が出している資料も宝の山です。経済産業省の「健康経営オフィスレポート」や、各種ホワイトペーパーは、日本企業の実情に即したデータが豊富で、論文並みに読み応えがあります。これらは無料で公開されているので、読まない手はありません。

論文検索のコツ

より専門的な情報を知りたい場合は、「Google Scholar」で「ウェルビーイング 生産性」「ワークエンゲイジメント 先行要因」などのキーワードで検索すると、多くの学術論文にアクセスできます。特に産業保健心理学や組織行動学の分野では、興味深い研究結果が日々発表されています。

注意点

海外の翻訳書も素晴らしいですが、欧米と日本(ジョブ型雇用かメンバーシップ型雇用かなど)では労働慣行や文化が異なります。「海外ではこれが当たり前」といってそのまま導入すると、現場の反発を招くこともあるので、自社の文化に合わせて咀嚼して取り入れることが大切です。

推進に役立つ資格やセミナー情報

社内でウェルビーイング経営を推進しようとすると、「専門知識がない私が旗振り役でいいのだろうか」と不安になることもありますよね。そんな時に役立つ資格や学びの場についてご紹介します。

CHO(Chief Happiness Officer)という役割

近年、欧米を中心に「CHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)」という役職を設置する企業が増えています。日本でも、これに関連する民間資格や養成講座が登場しており、幸福学の基礎知識や組織開発のスキルを体系的に学ぶことができます。

実務に直結する資格

また、国家資格であれば「社会保険労務士」や「キャリアコンサルタント」、民間資格であれば「メンタルヘルス・マネジメント検定」なども、制度設計や従業員の相談対応において非常に親和性が高いです。特にメンタルヘルス・マネジメント検定のⅠ種(マスターコース)は、人事労務担当者として押さえておくべき知識が網羅されています。

ただ、必ずしも資格が必要なわけではありません。まずは人事担当者向けの無料のウェルビーイング経営セミナーや、他社の事例発表会に参加して、他社の担当者と横のつながりを作ることから始めてみるのも良いでしょう。「同じ悩みを持っている人がいる」と知るだけでも、心強いものですよ。

ウェルビーイング経営の実践手法と成功事例

ここからは、いよいよ実践編です。理論は分かったけれど、「じゃあ明日から、具体的に何をすればいいの?」という疑問にお答えすべく、具体的なアクションプランや指標、事例を深掘りしていきましょう。

重要な指標設定と測り方のコツ

経営層にウェルビーイング施策を提案する際、必ず聞かれるのが「それで、効果はどうやって測るの?」という質問です。「みんなが笑顔になりました」では、残念ながら予算は降りません。見えない「幸福度」を可視化する指標(KPI)を持つことが重要です。

代表的な測定指標

実務でよく使われる指標には、以下のようなものがあります。

  • eNPS(Employee Net Promoter Score): 「親しい友人に自社への入社を勧めたいと思いますか?」という質問に対し、0〜10点で回答してもらい算出するスコアです。従業員のロイヤリティを測るシンプルかつ強力な指標です。
  • ストレスチェックの集団分析結果: 法定義務であるストレスチェックですが、個人の高ストレス者判定だけに使うのはもったいないです。「仕事のコントロール度」や「上司・同僚の支援」などの項目を部署ごとに分析することで、組織の健康状態が見えてきます。
  • プレゼンティーイズム損失額: WHO-HPQ(世界保健機関健康と労働のパフォーマンスに関する質問紙)などを用いて、健康問題による生産性低下を金額換算します。

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