「何度言っても社員のやる気がない」
「職場の雰囲気がどんよりしていて、いくら鼓舞しても響かない」
そんなふうに現場で頭を抱えていませんか。
実はそれ、社員個人の性格や甘えの問題ではなく、組織の構造的な課題が原因かもしれません。
特に昨今、多くの企業で課題となっている静かな退職やモチベーションの低下といった現象は、ワークエンゲージメントという視点で紐解くと、驚くほどその解決の糸口がクリアに見えてきますよ。
ここ、気になりますよね。
私はこれまで、多くの企業で健康経営や組織風土の改善を支援してきましたが、「やる気がない」社員を個人レベルで責めても、問題は解決しないことを痛感しています。
問題の根源は、組織が従業員に対して「適切な資源」を提供できていない点にあります。
本記事では、その科学的なメカニズムから具体的な対策まで、徹底的に解説していきます。
この記事を読むことで、あなたの組織が抱える課題の本質が理解でき、明日からのマネジメントが変わるはずです。
- 「やる気」とワークエンゲージメントの決定的な違いと正しい定義
- 日本企業で「静かな退職」や離職が増えている構造的な背景
- 30代の中堅やZ世代の若手が抱える特有のストレスや心理
- 明日から実践できる心理的安全性やジョブクラフティングの導入法
ワークエンゲージメント低下で社員のやる気がない原因を分析
「なぜ、うちの社員はこんなにやる気がないんだろう?」
その疑問を解消するためには、まず現状を正しく「診断」することが大切です。
ここでは、個人の資質ではなく、組織や環境の側面から、エンゲージメントが低下してしまう根本的な原因を深掘りしていきましょう。
原因を構造的に理解すれば、対策の方向性も見えてきますよ。
モチベーションや従業員満足度との違いを明確化
まず最初に、私たちが日常的に使う「やる気」という曖昧な言葉を、ビジネス心理学の観点から明確に整理しておきたいんです。
「やる気がない」とひとくくりにしがちですが、モチベーション、従業員満足度(ES)、ロイヤルティ(忠誠心)といった概念は、それぞれワークエンゲージメントとは全く異なる性質を持っています。
ワークエンゲージメントの定義と構成要素
私たちが目指すべきワークエンゲージメントとは、オランダのシャウフェリ教授らが提唱した概念で、「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」の3つが揃った、持続的かつポジティブで充実した心理状態です。
一時的な感情の高ぶりではない、根幹にあるエネルギー源と言えます。
類似概念との決定的な違い
モチベーションやESとエンゲージメントを混同したまま対策を打っても、「給料を上げたのに働かない」「休みを増やしたのに辞めていく」といったミスマッチが起きるだけです。
| 概念 | 状態の特徴 | ワークエンゲージメントとの違い |
|---|---|---|
| モチベーション | 「〜のためにやるぞ」という動機づけ(昇給、昇進など、行動する前の意欲)。 | モチベーションは「行動する前の意欲」や「駆動力」であり、特定の目標(外発的動機)が達成されると低下しやすい一時的な状態です。エンゲージメントは「仕事中の充実感」であり、仕事そのものから活力を得るため持続的です。 |
| 従業員満足度(ES) | 「会社が提供する環境や条件に満足している」状態(福利厚生や給与など)。 | 満足度が高くても、「ぬるま湯で楽だから辞めない」という現状維持バイアスがかかり、業績向上への貢献意欲が低いケースがあります。エンゲージメントは「能動的な貢献意欲」を含む点で経営指標としての重要度が高いです。 |
| ロイヤルティ/コミットメント | 会社への忠誠心、帰属意識、責任感。「会社が優位」という主従関係の意味合いが強い。 | ロイヤルティは一方向的な忠誠心ですが、エンゲージメントは会社と従業員の対等な「双方向の関係性」を重視します。ロイヤルティが高くても、疲弊しきっている社員はエンゲージメントが低い状態と言えます。 |
| ワーカホリズム | 活動水準は高いが、仕事への態度が否定的。「仕事をしていないと不安」など強迫的に働く傾向。 | エンゲージメントは「幸福感を伴う没頭」ですが、ワーカホリズムはネガティブな動機づけに基づくため、バーンアウト(燃え尽き)につながりやすいという点が決定的に異なります。 |
つまり、「やる気がない」状態の社員は、単に待遇に不満がある(ESが低い)だけでなく、仕事そのものに誇りや熱意を持てていない(エンゲージメントが低い)状態にあると理解できます。
この「仕事との前向きな関係性」の欠如こそが、組織が今、最も注視すべきポイントです。
静かな退職や離職率増加につながる深刻なリスク
今、世界的にそして日本で深刻化しているのが「静かな退職(Quiet Quitting)」です。
これは、実際に退職届を出すわけではないけれど、心のなかではすでに仕事に見切りをつけており、「クビにならない程度の最低限の業務だけをこなす」という働き方のことを指します。
日本のエンゲージメントが世界最低水準である事実
Gallup社の最新調査(State of the Global Workplace: 2024 Report)によると、日本の従業員エンゲージメント率はわずか5〜6%程度と言われており、これは世界平均(約21%)と比較しても極めて低い水準です。
さらに衝撃的なのは、「やる気のない社員(Not Engaged)」と「周囲に不満を撒き散らす社員(Actively Disengaged)」を合わせると、なんと日本企業の約**93%**がネガティブな状態にあるというデータもあるんですよ。
この「静かな退職」状態にある社員は、表向きは真面目に出勤しています。しかし、指示されたタスクをこなすだけで、自主的な提案や改善の働きかけはしない。会議で発言しない、業務以外のコミュニケーションが希薄になるといった行動が見られます。彼らは「頑張っても報われない」「会社に期待しても無駄だ」と学習してしまっているため、エネルギーの無駄遣いを避ける「省エネモード」に入っているんですね。
組織が被る致命的な3つのリスク
この現象を放置することは、組織にとって致命的なリスクとなります。
- 生産性の低下と経済的損失: 最低限の業務しかしないため、業務のスピードや質が低下し、チーム全体のイノベーションも損なわれます。Gallupの試算では、エンゲージメント低下による日本の経済損失は年間約5,240億ドル(約78兆円)にも上ると言われています(出典:Gallup『State of the Global Workplace: 2024 Report Japan Spotlight』)。
- 健全な職場文化の崩壊: 「あの人だけ楽をしてズルい」という不公平感が、真面目に頑張っている社員(ハイパフォーマー)の意欲まで削いでしまいます。
- 優秀な人材の離職: 最悪のシナリオは、モチベーションの高いエース社員ほど、環境の悪化に敏感に反応し、「ここでは成長できない」と判断して離職するリスクが高まることです。結果的に、組織に残るのは「静かな退職者」と「意欲を失った中堅」だけとなり、組織全体の活力が弱まっていきます。
「やる気がない」のは、個人の怠慢ではなく、組織がそのエネルギーを吸い取っていると捉えるべき時期に来ているのかもしれませんね。
30代に多い心身の不調やストレスが理由の場合
働き盛りであるはずの30代が「やる気がない」ように見える場合、その背景には、個人の精神力ではどうにもならない、切実な心身の疲弊が隠れていることが多いです。現場のリーダーや人事の方は、この層が抱える複合的な負荷を理解することが非常に大切です。
30代のモチベーション低下の真の理由
30代は、業務においては責任ある立場(管理職やプロジェクトリーダー)を任され、業務量が増えます。
同時にプライベートでは結婚、育児、マイホームの購入、親の介護予備軍など、人生で最も大きな「ライフイベントのラッシュ期」に突入します。
各種調査を見ると、30代のモチベーション低下の理由として上位に挙がるのは、実は「仕事内容」や「給料」以前に、「心身の不調」や「睡眠不足」なんです。
責任が増しているのに、体力は少しずつ曲がり角を迎え、可処分時間は家庭に取られ、慢性的な睡眠不足(スリープ・デット)に陥っているケースが非常に多いのです。
疲労によるエンゲージメントの生理的低下
脳科学的に見ても、睡眠不足や慢性的な疲労状態にある脳は、意欲や感情のコントロールを司る前頭葉の機能が低下します。これは、JD-Rモデルの「健康障害プロセス」が作動している状態です。仕事の要求度(長時間労働、プレッシャー)が個人の適応能力を超え、エネルギーが枯渇し、慢性的な疲労やバーンアウトを引き起こすのです。
30代へのマネジメントは「健康」が資源
疲弊しきった脳では、エンゲージメントの源泉である「活力(Vigor)」を生み出すことは生理学的に不可能です。この層に必要なのは、精神論的な鼓舞ではありません。適切な休養、有給休暇の取得促進、業務効率化による残業削減といった健康管理(ヘルスケア)のアプローチこそが、遠回りのようでいて、やる気回復への最短ルートになります。30代社員に対して、上司が率先して定時に帰り、休みを取る姿を見せることも、強力なメッセージになりますよ。
給料への不満や人事評価が適切でない影響
「頑張っても報われない」と感じた瞬間、人の熱意、すなわちエンゲージメントは急速に冷めていきます。
特に、成果と評価が直結しないと感じる不公平感は、やる気を削ぐ最大の要因の一つです。
ハーズバーグ理論から見る報酬の限界
心理学者のハーズバーグが提唱した「二要因理論」では、給与や待遇は「衛生要因」と呼ばれています。
これらは、不足すると「残業が多い」「仕事に見合った給料ではない」といった強い不満(やる気のマイナス)を引き起こしますが、満たされたからといって必ずしも「満足(やる気のプラス)」につながるわけではありません。
つまり、給料を上げてもやる気は青天井に上がりませんが、給料が不公平だとやる気は確実にゼロになるということです。
日本企業における評価制度の構造的課題
エンゲージメントが低い企業では、人事評価が正当に実施されていないケースが非常に多いです。
- 評価基準の不明確さ: 評価基準が曖昧で、納得できる根拠が提示されない場合、社員は「努力や成果が正しく評価されていない」と感じます。
- 職能型人事制度の硬直化: 日本企業に多い年功序列や職能給は、一度等級が上がると下がりにくいため、成果を出していない中高年層の既得権益化を招きます。一方で、成果を出している若手の給与が上がらないという不公平感を助長し、意欲を大きく削ぐ原因となります。
公正で透明性の高い評価制度の導入は、エンゲージメントを高めるための最も重要な「資源」の一つです。特に360度評価やMBO(目標管理制度)など、多角的な視点や客観的な目標達成度で評価する仕組みの導入を検討すべきでしょう。
まずは「マイナスをゼロにする」という意味で、納得感のある評価制度や待遇の整備は最低限の土台として必要不可欠ですよ。
上司ガチャや人間関係の悪化による環境要因
社員のやる気がなくなる原因の多くは、業務内容よりも「誰と働くか」、つまり人間関係に起因します。特に直属の上司との関係性は、エンゲージメントにおける最大の変数と言っても過言ではありません。
#### 8割が経験する「上司ガチャ」ハズレ
「上司ガチャ」という言葉が定着してしまいましたが、アクシス株式会社の調査では、なんと働く人の8割以上が「上司ガチャでハズレを引いた経験がある」と回答しているほど、この問題は深刻です。
高圧的な態度、指示がコロコロ変わる(朝令暮改)、部下の意見に耳を傾けない、手柄を横取りするといった上司(クラッシャー上司)の下では、部下の心理的安全性は完全に崩壊します。
心理的安全性の欠如と学習性無力感
このような環境下では、部下は「何を言っても無駄だ」「失敗したら責められる」と感じ、自ら発言や挑戦を控えるようになります。これは、モチベーションが奪われるだけでなく、「どうせ努力しても意味がない」という学習性無力感に陥る状態です。
その結果、社員は身を守るために感情をオフにし、「言われたことだけやる」最小限の仕事しかしなくなります。表面的には「やる気がない社員」に見えるかもしれませんが、それは個人の資質の問題ではなく、完全に環境(マネジメント)の問題によって作り出された防衛反応なのです。良好な人間関係は、JD-Rモデルにおける「仕事の資源」の最も基礎的な要素であり、信頼関係の構築(上司が部下の意見に耳を傾ける、適切なフィードバックを行う)が不可欠です。
### Z世代や新入社員が成長やフィードバックを望む心理
2025年の新入社員やZ世代の若手に対するマネジメントは、従来の「終身雇用前提の育成」とは大きく視点を変える必要があります。彼らが職場に対して最も恐れていること、それは「ブラック企業に入ること」以上に、「この会社にいて、自分は成長できるのか?」という点です。
#### 成長意欲への強い飢餓感
リクルートマネジメントソリューションズの「新入社員意識調査2025」によると、働く上での不安として「仕事についていけるか」がトップである一方で、「自分が成長できるか」という懸念も昨年比で上昇し、関心の高さを示しています。終身雇用が崩壊したことを誰よりも理解している彼らは、自分の市場価値(ポータブルスキル)が身につかない環境、いわゆる「ゆるい職場」に対して強い危機感を抱いています。かつてのような「アットホームな職場」よりも、「お互いに助け合い、成長できる職場」を強く求める傾向があります。
#### 「放置」が最大のモチベーション低下要因
また、この世代は、上司からのこまめなフィードバックを強く求めています。フィードバックは、彼らにとって「自分が正しく評価されている」「成長のための資源をもらえている」という証明です。
理想の上司像は「間違いを指摘して正してくれる人」
意外かもしれませんが、2025年の新入社員意識調査では、理想の上司像として「優しく接してくれる人」よりも「間違いを指摘して正してくれる人」が2年連続で1位に選ばれています。彼らは理不尽な怒られ方は嫌いますが、自分の成長につながる厳しい指導は「資源」として認識しているのです。「見て覚えろ」や「放置」は、彼らにとって信頼ではなく「見捨てられた」と同義になりかねません。放置されることこそが、Z世代のワークエンゲージメントを低下させる最大の要因となる可能性があります。
若手社員のエンゲージメントを高めるには、明確な目標設定(SMARTな目標)と、成果だけでなくプロセスも評価する質の高いフィードバックを提供し、努力が正しく認められる環境を整えることが重要です。
## ワークエンゲージメントで社員のやる気がない職場を変える
原因が見えてきたところで、ここからは具体的な解決策、つまり「処方箋」についてお話しします。社員の「やる気がない」状態は、単なる感情論ではなく、組織環境と個人の資源のバランスが崩れた結果として表れます。精神論ではなく、科学的な根拠に基づいたアプローチで、組織の活力を根本から取り戻していきましょう。ここからの施策は、JD-Rモデルという理論に基づいて体系化されていますよ。
### JD-Rモデルで仕事の資源と要求度を最適化
ワークエンゲージメントを高めるための最も科学的かつ実用的な基本理論に、JD-Rモデル(Job Demands-Resources Model:仕事の要求度-資源モデル)というものがあります。JD-Rモデルは、あらゆる職務の特性を「要求度」と「資源」の2つに分けて分析し、そのバランスが従業員の心理状態とパフォーマンスにどう影響するかを説明する強力なフレームワークです。
<h4\>仕事の要求度(Job Demands)とは\</h4\>
これは、仕事の量やスピード、責任の重さ、対人関係のストレス、感情労働など、従業員のエネルギーを消費させる要因です。JD-Rモデルでは、要求度をすべて「悪」とは見なしません。例えば、役割の曖昧さや理不尽なルールといった「妨害的ストレッサー」は避けるべきですが、高い目標や複雑な課題といった「挑戦的ストレッサー」は、達成感が得られればむしろ人を成長させる可能性を秘めています。
<h4\>仕事の資源(Job Resources)とは\</h4\>
これは、目標達成を機能的に助け、要求度による負担を軽減し、個人の成長を促すあらゆるサポート要因を指します。具体的には、上司や同僚からのサポート、仕事の裁量権(コントロール)、パフォーマンスに対するフィードバック、公正な評価、研修やスキルアップの機会などが含まれます。
このモデルの核心は、**資源が豊富にあれば、人は高い要求度(挑戦)を乗り越え、それをやりがいに変えられる**という点です。
JD-Rモデルの黄金律
JD-Rモデルの動機づけプロセスが働く理想的な状態は、「仕事の要求度が高い(挑戦的) + 仕事の資源が豊富」な組み合わせです。この状態であれば、困難な仕事であっても、十分なサポートや裁量権があれば、それは「やりがい」に変わり、人は燃えるのです。社員のやる気がない場合、まずは「資源」のボトルネックがどこにあるのかを特定し、補強することが、エンゲージメント向上のための最優先事項となります。
組織としては、エンゲージメントサーベイなどを活用して、職務ごとの要求度と資源のバランスを定期的に測定し、戦略的に「資源」を供給していくことが求められます。資源の特定と充実が、ワークエンゲージメントを向上させ、離職率の低下や生産性の向上といったポジティブなアウトカムをもたらします。
### 心理的安全性を高めて発言しやすい風土を作る
Googleの研究(プロジェクト・アリストテレス)でも、効果的なチームの最大の成功要因として特定されたのが、「心理的安全性(Psychological Safety)」です。これは、「対人関係においてリスクのある行動(質問やミスを認めること)をとっても、このチームなら安全だ」という、チームメンバー間で共有された信念のことです。この心理的安全性の有無こそが、社員が「やる気がない」状態から抜け出せるかどうかの土台となります[1, 2]。
<h4\>心理的安全性の欠如が招く「4つの不安」\</h4\>
心理的安全性が低い職場では、従業員はハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した以下の4つの不安に支配され、思考と行動が自己防衛に偏ってしまいます。
- <li\>\<strong\>無知だと思われる不安:\</strong\> 分からないことを「こんなことも知らないのか」と思われたくないため、質問や相談を避ける。\</li\> <li\>\<strong\>無能だと思われる不安:\</strong\> ミスを報告したら能力がないと判断されるのが怖いため、問題を隠蔽する。\</li\> <li\>\<strong\>邪魔をしていると思われる不安:\</strong\> 発言や提案が的外れで、議論を妨げると不安に感じ、黙ってしまう。\</li\> <li\>\<strong\>ネガティブだと思われる不安:\</strong\> 批判的な意見や反対意見を述べることで、空気を壊すことを恐れる。\</li\> \
これらの不安に支配されていると、脳のメモリは「自己防衛」に使われてしまい、創造的な仕事に向けるエネルギーや、困難に立ち向かう「活力」が残りません[2]。結果として、指示待ちや最低限の業務しかしない「静かな退職」状態に陥ってしまうのです。
<h4\>リーダーが実践すべき3つの行動ステップ\</h4\>
心理的安全性を高めるために、リーダーは以下の行動を率先して取るべきだとエドモンドソン教授は説いています。
- <li\>\<strong\>仕事の再定義:\</strong\> 仕事を「間違いなく実行する問題」ではなく、「試行錯誤して学習する問題」と定義し直すことで、ミスの意味を変える。\</li\> <li\>\<strong\>可謬性(かびゅうせい)の表明:\</strong\> リーダー自らが「私には分からないことがある」「私もミスをするかもしれない」と弱みを見せ、メンバーの知恵を必要としていることを伝える。これにより、メンバーは安心して発言できるようになる。\</li\> <li\>\<strong\>反応の質の向上:\</strong\> 部下からの悪い報告や異論に対して、まず感謝し、好奇心を持って耳を傾ける(例:「教えてくれてありがとう。詳しく聞かせてくれる?」)。ネガティブな反応を絶対にしないことが重要です。\</li\gt
心理的安全性が高い環境下では、チーム内のコミュニケーションが活性化し、学習意欲の向上、そしてワークエンゲージメントの向上につながることが実証されています[2]。特に1on1ミーティングは、心理的安全性を高めるための重要なツールの一つと位置づけられます[2]。
### ジョブクラフティングで仕事のやりがいを再発見
社員が「やる気がない」と感じる大きな原因の一つは、自分の仕事が「単なるルーティン」になってしまい、そこから成長や意義を感じられなくなることです。会社から一方的に与えられた仕事を、従業員自身が主体的に再設計し、「自分の仕事」に作り変える手法を「ジョブクラフティング(Job Crafting)」と言います。
<h4\>ジョブクラフティングの3つの技法\</h4\>
ジョブクラフティングは、やらされ仕事から解放され、仕事へのやりがいや満足度を高めるために、以下の3つの側面からアプローチします[3, 4]。
-
- <li\>\<strong\>タスク・クラフティング(業務の工夫):\</strong\> 仕事のやり方や範囲を工夫し、業務プロセスを見直すこと[3]。
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- <br\>例:単調なルーチン業務を自動化する、自分の得意な分析スキルを活かせる業務の比率を増やす、マニュアルを刷新する。これにより、業務負担の軽減や効力感(自分が貢献している感覚)が高まります[3]。\</li\> <li\>\<strong\>リレーショナル・クラフティング(人間関係の工夫):\</strong\> 仕事で関わる人や関わり方、人間関係の量や質を変えること。
-
- <br\>例:他部署の若手と情報交換のためのランチを企画する、苦手な人との接触を減らす工夫をする、後輩のメンター役を買って出る。これにより、社会的支援(ソーシャルサポート)の獲得や、孤独感の解消につながります[5]。\</li\> <li\>\<strong\>コグニティブ・クラフティング(認知の工夫):\</strong\> 仕事に対する捉え方や意味づけを、主体的にポジティブなものに変えること。
- <br\>例:「病院の清掃業務」を「患者の回復を助ける環境づくり」と再定義する[3]。自分の仕事が最終的に誰の役に立っているのか(タスク重要性)を深く考える。これにより、仕事の意義(Meaning)が再発見され、「熱意(Dedication)」が生まれます。\</li\>
ジョブクラフティングの導入によって、従業員は受け身の姿勢から能動的な姿勢に変わり、当事者意識(オーナーシップ)が生まれます[5]。企業がこれを推進するためには、社員が自分の業務を見つめ直すための研修やワークショップを提供し、同僚同士で工夫や悩みを共有する場を設けることが非常に有効ですよ[5, 4, 6]。
### 1on1や柔軟な働き方で自律的な成長を促す
社員のやる気を高める「資源」の中でも、特に重要性が高まっているのが「自律性(裁量権)」と「成長機会」です。画一的な管理ではなく、一人ひとりの個性と状況に合わせた個別化されたマネジメントが求められており、そのために1on1ミーティングと柔軟な働き方が不可欠となります。
<h4\>1on1ミーティングの役割:管理からコーチングへ\</h4\>
1on1は進捗確認の場ではありません。業務目標の達成度を問いただす「管理」の時間にしてしまうと、心理的安全性を低下させるだけです。1on1は、部下の悩みを聞き、キャリアの希望を共有し、信頼関係を築くための「部下のための時間」であるべきです[7, 8]。
質の高い1on1では、上司は傾聴を通じて部下の成長意欲(Will)や強み(Can)を引き出し、それをJD-Rモデルの「仕事の資源」として認識させます。例えば、部下がやりがいを感じているタスクについて深掘りし、そのタスクを増やす方向で業務アサインを調整することも、立派なエンゲージメント向上施策です[7, 8]。曖昧な目標や形だけのフィードバックはやる気を削ぐため、SMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性がある・期限がある)な目標設定と、成果だけでなくプロセスも評価する質の高いフィードバックを徹底しましょう[7, 9]。
<h4\>柔軟な働き方の提供:信頼という名の資源\</h4\>
リモートワーク、フレックスタイム制、ワーケーション、副業の解禁といった柔軟な働き方(WAA:Work from Anywhere and Anytime)は、単なる福利厚生ではなく、強力な「資源」となります。
<p\>\<strong\>先進事例から学ぶ「自律」の効果\</strong\>\</p\> <p\>サイボウズ株式会社は、「100人100通りの働き方」を導入し、個人の事情(育児、介護、副業、趣味など)に合わせて働き方を選択できる制度を徹底しています。この徹底した多様性の受容と、社員への信頼をベースとした自律的な働き方を推進した結果、離職率を大幅に改善し、エンゲージメントスコアを40から67に大幅上昇させています。また、ユニリーバ・ジャパンも、働く場所や時間に制約を設けない「WAA」を推進し、上司の管理ではなく性善説に基づいた自律を求めることで、生産性とエンゲージメントを向上させました。\</p\> \</div\>これらの事例が示すように、会社が社員を信頼し、働く場所や時間の裁量を与えることで、社員は「自分は大切にされ、信頼されている」と感じ、自律的なやる気(エンゲージメント)で応えようとする好循環が生まれるのです[10]。
### ワークエンゲージメントで社員のやる気がない職場改善のまとめ
社員の「やる気がない」という現象は、個人の怠慢や甘えに見えるかもしれませんが、本質的には「心身の疲労」「不公平な評価」「心理的安全性の欠如」「成長機会や資源の不足」といった、組織の構造的な病理が引き起こしたSOSサインです。日本企業のエンゲージメント率が世界最低水準で推移している現状を踏まえれば、これはもはや無視できない経営課題です。
私たちは、この問題を「最近の若いもんは」と断罪したり、一時的なインセンティブで解決しようとしたりするのではなく、ワークエンゲージメントという科学的な視点から、構造的な改革を推進する必要があります。それは、従来の「管理型マネジメント」から、従業員の自律性を尊重し、成長を支援する「支援型マネジメント」へのパラダイムシフトを意味します。
まずは、以下の3つの柱から改善を始めてみませんか。
- <li\>\<strong\>基盤づくり:心理的安全性の醸成\</strong\>(発言、質問、ミス報告が許容される風土)\</li\> <li\>\<strong\>資源の供給:JD-Rモデルの最適化\</strong\>(公正な評価、質の高いフィードバック、自律性の付与)\</li\> <li\>\<strong\>当事者意識の覚醒:ジョブクラフティングの促進\</strong\>(社員自らが仕事に意義を見出し、熱意を持つ機会の提供)\</li\>
いきなり全てを変えるのは難しいですが、リーダーであるあなたの関わり方や、社員への「信頼」のメッセージが変われば、必ず職場の空気は変わり始めます。社員が「ここで働いていて良かった」「明日の仕事が楽しみだ」と思えるような、活気に満ちた職場づくりを、私、行政書士の小野馨も応援しています。